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ゴエモン 第一章 その2
石川淳也です。
昨日は主人公のゴエモンが出ていませんでした…… と、いうより
未だ産まれていないのです。
主人公のいない話は面白くなかったかも知れません。
そこで、今日は主人公の登場までを一気に書き上げました。
そのために、昨日に続いて長い文章になっています。
あきずに最後まで読んでください。

淳也は夢を見た。
西村のおばちゃんが『元気でね。頑張るのよー』と叫んでいる。おば
ちゃんの背におんぶされた美奈子が『お兄ちゃーん』と呼んでいる。
ボートの上で桃太郎がうなずいた。桃太郎の顔は淳也である。
猿がエンジンをかけた。スクリューが勢いよく回り出し、ボートは動
き始めた。
キジが『俺について来い』と言いながら、先に飛んで行った。
あれ? 家来の犬がいない。淳也は夢の中で犬を探した。
いた、いた。
桃太郎である淳也の腕の中で、鼻黒の小さな小犬が抱かれている。
鬼が島が見えてきた。三角形の山がある。
ザーッ、ボートが砂浜に乗り上げた。
ボートから浜に飛び降りた桃太郎は、爪にマニュキアをした二本の足
を見た。顔をあげると、目の周りに黒い輪の鬼…… そう、それは京子お
姉ちゃんだった。
お姉ちゃんの頭には二本の角がついている。
その後ろでママが『淳也、助けてー』と叫んでいる。
『ママー、今助けるからねーっ』
どうやら、これはお姉ちゃん鬼にさらわれたママを助けるという、夢
のようだ。と、思っていると夢の場面が変わった。
そこは小学校の校門だった。
髪の全てを逆立てたような頭をしたパパがいた。
パパは赤や青、金、黄色など鮮やかな色で描かれた模様の着物を着て
いた。
パパはふんぞり返り、偉そうにしている。
『パパ、何しているの?』
『淳也、パパではない。
わしはお前の先祖だ。石川五右衛門という。
お前は、わしの子供の子供、そのまた子供の子供、さらにそのまた子
供の子供と幾つも子供が続いた後の子供だ。わかるか?』
『??』
『わからずともよい。お前は今からこの箱の中のわしの生まれ変わりを
持って帰って、大切に育てるのだ。良いな!』
強い口調で言った石川五右衛門は、足元を指差した。そこにはダンボ
ール箱。
淳也は、その箱の中のものが何かを聞きたいと思った。
しかし、声を出すことができなかった。
「それは何?」という言葉を出そうと淳也は何度も試みた。ついに、
「なっにーーっ! そっれっはっー?」
と大きな声を出した。
大きな声を出した勢いで、淳也の目が覚めた。
隣を見ると、オレンジ色の薄い光の中で美佐子がパパの枕に足を乗せ
て寝ていた。
パパはどこ? ママの方に向き直すとママとパパが並んで寝てる。
淳也はそっと寝室を出た。居間を通るとき見た時計は午前四時。
スニーカーを履き、外に出た。街灯が点いており真っ暗というわけで
はない。
走って坂道を下った。誰もいないところを走るのは怖い。でも、学校
へ行かなければならないという気持ちが怖さよりも強かった。
薄暗くて誰もいない商店街を走り抜け、校門の見える場所にきた。
夢で見た通りのダンボール箱がある。
しかし、パパに似た石川五右衛門はいない。
恐る恐る近づくと、ゴソゴソッ、ゴソゴソッとダンボール箱が動いて
いる。
石川五右衛門の赤ちゃん? 蛇? ウサギ? カブト虫? 少し怖い
気がする。
そのとき、「クーン、クーン」と小さく泣く声が聞こえた。
思い切って、ぱっと箱を開いた。
箱の底に小犬がいた。
ふらふらとした足取りで左右に揺れ、小刻みに震えてもいる。体全体
は柔らかい茶色の毛で覆われているが、鼻の周りだけが黒く、目を閉じ
ている。
夢の中で桃太郎が抱いていた犬だった。
裏返してみると、小さなおチンチンが二つついている。
変な犬だなと思った。
「お前、ゴエモンか?」
「キャン」と泣いた。
「そうだな、石川五右衛門の生まれ代わりだから、お前の名前もゴエモ
ンだ」
淳也はパジャマのボタンを外して、そっとゴエモンを中に包み込ん
だ。ゴエモンはパジャマの中で体を丸め、「クーンクーン」と泣いてい
る。
ゴエモンをかばうように、ゆっくりとした足取りで歩き始めたが、早
く家に戻りたいという気持ちから急ぎ足になった。
「はっはは、ゴエモン、ゴエモン。
僕のゴエモン、
ゴーエモンモンモン」
途中から歌いながら、スキップして商店街のアーケードを通り抜け
た。
家が見えてきた。坂道を登るときに、淳也に疲れと眠気が襲ってき
た。
玄関に入ってからのことを、淳也は覚えていない。
「淳也、淳也、起きなさい」
ママの声がする。淳也はママに揺り動かされていた。
「うーん、気持ち良く眠っているのに……
そうだ! ゴエモン!」
淳也の意識ははっきりと覚めた。
「駄目じゃあないの、こんな所で寝てちゃあ。風邪でも引いたらどうす
るの!」
淳也は居間のソファーで寝ていたのだ。
「ママ、ゴエモンは?」
「ゴエモン? 何、それ」
「ゴエモンだよ、ゴ、エ、モーン!」
淳也は辺りをキョロキョロと見渡した。が、ゴエモンの姿が見えな
い。
「夢だったのかなあー?」
「寝ぼけているのね」ママは笑い出した。
しかし、その笑い声は直ぐに消えた。
ママがビクッと固まった。ママはそおーっと、足元を見た。
「キッ、キャ〜〜〜〜ッ」
ママの足をペロペロとなめている小犬。
「あっ、ゴエモン! 夢じゃあなかったんだ」
ゴエモンをママに紹介しよう−− 両手で持ったゴエモンをママの顔
の前に突き出した。
「ママ、これがゴエモンだよ」
ゴエモンは、ママの鼻をペロリとなめた。
「パパア〜〜! 来て〜〜!
来て〜〜!」
眠気まなこのパパが居間に入って来た。淳也はゴエモンを抱いてい
る。
「淳也、どうしたんだ? その犬は」
「パパ、ゴエモンだよ。
僕はゴエモンの子供の子供で、またその子供の子供で、幾つもの子供
の子供なんだ」
パパとママは顔を見あわせた。
「お前はパパとママの子なんだよ。この小犬の子供じゃあないよ」
「でも、僕は……」
説明の方法が分らない淳也は、言葉を続けることができない。
「ねえ、パパ、ゴエモンを家で飼ってもいいでしょ?」
パパはママの顔を見た。ママは顔を横に振っている。
「その前にもっとくわしく話してくれないか。
ゴエモンというのは淳也がつけた名前か?」
「ううん」淳也は首を横に振った。
「ゴエモンが、名前を言ったんだ」
「いつ? どこで?」
「夢の中で……」
「どんな夢か話してごらん」
淳也は、桃太郎と石川五右衛門の夢の話をした。
桃太郎の夢の話のとき、「あっ、ははー」とパパは笑った。
「何で私が鬼にさらわれるのよ」とママはふくれた。
石川五右衛門の話しのときには、黙って聞いていた。
「それで、学校へいったら、ダンボールの箱の中にこの小犬がいたの
か?」
「うん、そうだよ。だから、このゴエモンは僕らと生活するんだ」
「気味が悪いわねー」
ママの声が上から聞こえた。
「あっ、わんちゃんだ」
美奈子が寝室から出てくるなり、叫んだ。
「ゴエモンだよ。これから一緒に生活するんだ!」
「わあー、可愛い。嬉しいな、嬉しいなー」
パパとママは、ゴエモンを飼ってはいけないと言えなくなった。ママ
が家の中で飼うことだけは嫌だと言ったので、庭で飼うことになった。
「パパ、ゴエモンはおチンチンが二つあるよ。変だね」
パパが、ゴエモンを持った。
「これは、へその緒だよ。
生まれたばかりなんだろう。目も開いていないし……
動物病院へ連れて行って、へその緒をきちんとしてもらおう。ばい菌
が入ったら困るしな」
今日は土曜日、パパの仕事はない。
朝食のとき、ママがパパに聞いた。
「ねえ、本当に石川五右衛門の子孫なの?
石川って名字は全国にいくらでもあるけど、まさか子孫ではないでし
ょうね。結婚するとき、そんなこと言わなかったじゃない」
「さあ、聞いたことないなあー」
淳也がパパとママの会話に入った。
「先祖って、子孫の反対の言葉?」
「そうだよ」
「石川五右衛門はどんな人? 偉い人?」
「……」
パパとママは話してくれなかった。
「淳ちゃん、石川五右衛門の子孫だなんて言っちゃあ駄目よ。
いい! わかった! ぜっ、ぜーったいに言っちゃあ駄目よ!」
淳也は、石川五右衛門と言う人の名前を言うことは、ママが困るので
あろうと思った。ママに嫌われたくない淳也は、「うん、言わない」と
言いながらうなずいた。
食事の後が忙しかった。
先ず、電話帳で土曜日でも開いている動物病院を調べた。そして佐藤
動物病院を見つけた。
その佐藤病院でへその緒の手当てをしてもらった。
佐藤先生は、ゴエモンは生後四日から五日が経過しているようだか
ら、二、三日もすれば目が開くだろうと言い、小犬の育て方のアドバイ
スをしてくれた。
ママは、美奈子が使った哺乳ビンにミルクを入れてくれた。淳也がゴ
エモンの口に哺乳ビンをあてると、勢いよくミルクを吸い始めた。お腹
が空いていたのであろう。あっという間に、哺乳ビンが空になった。
「ゴエモンはお兄ちゃんの子供だね。でも、美奈子ちゃんにも抱かせ
て!」
美奈子は淳也からゴエモンを奪おうとした。
「違うよ、僕がゴエモンの子供なんだよ!
美奈子にも抱かせてやるから、乱暴するなよ」
「ゴエモンちゃん、ゴエモンちゃん」
と美奈子は人形を抱くようにゴエモンを抱いた。
パパは庭に小さな犬小屋を作った。その後、シャンプーを使ってゴエ
モンをぬるい湯で洗ってくれた。
ゴエモンが生活をする一通りの準備が終わった。
ゴエモンは、ミルクを飲むか寝るかのどちらかである。
翌日の日曜日、淳也と美奈子は朝から晩までゴエモンと一緒だった。
月曜日の午後、淳也はランドセルを横に揺らし、金具をカチカチ、カ
チカチカチと鳴らしながら坂道を駆け上がった。
西村のおばちゃんが玄関を掃いていた。
「淳ちゃん、お帰り」
淳也は、止まらずに「ただいまー」と言いながら、おばちゃんの家の
前を通り過ぎ、
「ゴーッ エーッ モ 〜〜〜 ン!」
大声で叫んだ。
西村のおばちゃんは、どうしたのかと思い、そっと淳也の後をついて
来た。
淳也は玄関から上がらず、庭に回った。ゴエモンがいる。
淳也に抱き上げられたゴエモンは淳也の顔をぺろぺろと舐めた。
うん? ゴエモンの目が開いている。淳也はゴエモンを両手で差し上
げ、左右に動かした。
ゴエモンの体が左右に動かされても、その目は淳也の方を見続けてい
る。ゴエモンは目が見えるのだ。
「よかったな、ゴエモン、目が見えるようになったか。
僕が淳也だよ。お前を連れてきたのは僕だよ」
「あら、可愛いのね」
後ろから、西村のおばちゃんの声がした。
「あっ、おばちゃん。これゴエモンだよ」
「ゴエモンって、この犬の名前?」
「そうだよ、僕のゴエモンだよ」
「ねえ、淳ちゃん、私にも抱かせてよ、ねっ!」
「おばちゃん、犬が好きなの?」
「ええ、好きよ、子供の頃飼っていたの。ゴエモン、ゴエモン」
と、おばちゃんはゴエモンをあやしながら抱き上げ、頬ずりをした。
その時、ママが幼稚園から美奈子を連れて戻ってきた。
「お帰りなさい」おばちゃんが言った。
「千代子さん、可愛いわねー。ゴエモン」
千代子とは、ママの名前である。
「ええ、まあ」
「おばちゃん、お兄ちゃんはゴエモンの子孫なのよ。お兄ちゃんはその
ことを人に言ってはいけないの。ねえー、ママ」
「美奈子ちゃん、変なことを言うんじゃあありません」
と、ママは美奈子をたしなめた。
「淳ちゃんが、ゴエモンの子孫? どういうこと」
おばちゃんが聞いた。美奈子が何か言いかけたが、
「いえね、淳也が変なことを言い出すもんだから、ホッホホ」
と、ママは、美奈子に言わせなかった。
それから、淳也と美奈子はゴエモンを玩具のようにして遊んでいた。
六時半にパパが帰ってきても美奈子はパパに飛びつかず、ゴエモンの
そばにいた。風呂に入って、夕食をして、子供達は午後九時に寝るとい
う時計で測ったような石川家のスケジュールは、ゴエモンによって狂っ
てしまった。
淳也と美奈子がゴエモンから離れないのである。パパまでもがゴエモ
ンのそばにいるようになった。
==今日は、ここまで==
石川淳也です。
これからゴエモンの活躍が始まります。
えっ? 産まれたばかりの小犬に何ができるか? ですって!
そんな疑問を持っている人…… あなたです。
明日の配信を楽しみに……
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