小説集
長編小説を主とした小説集……1.小説「ゴエモン」−−2.小説「才蔵」−−3.小説「拙者、才蔵」−−4.「日本軍上陸−パタニ王国」(新連載)−−4つの小説をお楽しみください。
プロフィール

石川淳也

Author:石川淳也
【石川淳也】小説「ゴエモン」著者
高校三年生。現在、大学受験勉強に悪戦苦闘中。
ゴエモンは小学2年生のときに我が家に来て、8年間一緒に暮らしました。
この物語は、ゴエモンとの思い出に少しだけ脚色したものです。

【山崎ミカ】小説「才蔵」著者
現在、高校二年生。中学生のとき才蔵と出会い、二人で生活しています。この小説はミカと才蔵の不思議な関係と二人の活躍を少しだけ脚色したものです。

【宮根真司】小説「拙者、才蔵」著者
本名、霧隠才蔵。山崎ミカとタイへ旅行した際、不思議な出来事に遭遇した。事件もあった。それらを小説にしたもの。

【田中廣一】小説「日本軍上陸」著者
拙者、才蔵に出てくる山田長政、山田オクン、脇坂、里見等と不思議な体験により出会った。その体験を小説にしたもの。


【【【[ お願い ]】】】
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拙者、才蔵 その3
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小説「拙者、才蔵」目次(作成予定)

小説「才蔵」目次、紹介、あらすじ  【主な登場人物】

小説「ゴエモン」目次とあらすじ(第一巻終了) 


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「それで、その方は亡霊となったというわけか……」

「同胞のほとんどがあのときに亡くなった。拙者らを弔ってくれる者な

どいなかったから、霊としてさまようしかなかった……」

「その方、話す前に家康を殺した事実が続いていたならアユタヤの日本

人は平和に暮らし続けた…… と言ったと思うが、どういう意味か教え

てくれ」

「それは、家康が鎖国令をだしたことじゃ。

 鎖国令が出たことはこのシャムにまで聞こえてきたから我らも知って

いた。一年以内に祖国へ戻らぬと二度と戻れるという命令だそうだ。

 鎖国令? まさか、そんなことがあるはずが無い。外国と交易を続け

ることは日本も潤う。それを禁止するような命令を幕府がだすはずがな

いと思いながら、ずるずると一年が経ってしまった。

 そして、シャムから荷を運んだ日本人達が上陸を禁止され、シャムに

戻ってきたのだ。

 その事件をきっかけに日本人の中には祖国にもどれないとやけになる

者が出始め、我らの間でまとまりがなくなったのじゃ。

 そんなときに、ソンタム王が亡くなった。山田長政様を政敵としてい

るカラホムにとって、好都合が重なったというわけじゃ。

 カラホムの打つ手のほとんどが成功し、我ら日本人の滅亡となったの

じゃ」

「そうか、拙者が大坂の陣の折に、家康を殺した事実が変えられたこと

が、シャムにまで影響していたのか……」

「霧隠殿、拙者と一緒に来てくださらぬか。会ってもらいたい方々がい

る」

「会ってもらいたい方々…… まさか、亡霊の集まりではあるまいな」

 才蔵はにやりと笑った。




 浅川がすーとそばに来て、才蔵の腕に触った。―― が、才蔵には人

に触られたという感触はなかった。

 代わりに触られた瞬間から激しい虚脱感に襲われ、身動きができなく

なった。

 浅川の体が宙に浮いた。その手は才蔵の腕に触ったままだ。浅川が上

の方へ、上の方へと浮き上がってゆく、才蔵の腕と浅川の手が離れると

思ったとき、才蔵の腕と浅川の手は離れず、才蔵の体も浮き上がった。

 部屋の天井を通り抜け、屋上を抜けて、空へ昇って行く。




 才蔵には恐怖感はなかった。

 アユタヤの夜を飛んでいるはずであるが、辺りの様子が違う。日本と

は違うとはいえ、街路灯や店の明かり、ネオンなどの明かりがあるはず

だが、それらが全く無い。

 真っ暗闇の中を飛んだ。前方に一箇所だけ、明かりが見える。電灯の

明かりではない。松明の明かりだ。そこは…… アユタヤの観光ガイド

に案内された日本人町のあった場所だ。

 浅川は才蔵をそこへ連れてゆこうとしているらしい。

「あそこは元日本人町があったという場所ではないか」

「いや、元あった場所ではない。今も日本人町だ」

 浅川六郎は才蔵の腕に手を触れさせたまま言った。

「今も日本人町?」

「そうじゃ、我らは今もあそこに住んでいる」



 ==今回はここまで==





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拙者、才蔵 第一章 亡霊達 その4
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小説「拙者、才蔵」目次(作成予定)

小説「才蔵」目次、紹介、あらすじ  【主な登場人物】

小説「ゴエモン」目次とあらすじ(第一巻終了) 


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 浅川六郎が「今も日本人町」と言った場所へ降りてゆく、才蔵の目に

状況が見えてきた。

 辺りの家々は才蔵にとって懐かしい昔の家が並んでいる。――  と

はいえ、少し違うのは茅葺の屋根がヤシの葉で葺かれていたり、土壁が

少なく風通しの良い構造になっているようなことだ。

 松明が焚かれている大きな館の敷地内に降りた。

 大勢の武士、町人姿の人々の間におりた。―― その人々は何かが違

う。生気を感じない。今までは浅川六郎だけと接していたのでそれを感

じなかったが、生気を感じない者が大勢いるとそれを強く感じる。――

 こいつらも亡霊か。と、才蔵は思った。




「浅川、その者は?」

「オクン様、真田家の家臣、霧隠才蔵殿です」

 オクンという武士は大勢いる亡霊の中でも若い。身分も高そうだ。―

― オクン…… そうだ、浅川六郎が山田長政の息子の名前を山田オク

ンと言っていた。

「真田家の家臣? そのような者はこのシャムにはいなかったと思う

が…… それに、その格好は、我らと違うが本当に我らの同胞か、南蛮

人か紅毛人ではないのか?」

 才蔵の姿は明らかに、亡霊たちとは違う。才蔵はジーンズにTシャツ

姿だった。

 周りの亡霊達はオクンとの成り行きを注目している。




「まさか、カラホムの手の者ではなかろうな?」

 そばにいた武士が言った。

 浅川六郎は、才蔵が大坂の陣の折、タイムスリップしたことを話し

た。

「では、その方は生ある世に生きているのか?」

 その男は浅川の手が才蔵の腕に触れているのを見ながら言った。

「脇坂様、そうです。タイムスリップとか申す、昔の時から未来の時へ

移ったのだそうです」

 脇坂もオクンと同じような年齢の若武者であるが、身分はオクンより

も低いと思われた。

「では、なぜ、真田家の者がこのシャムに来ている? 鎖国令の中、祖

国へ戻るのは難しいぞ、それを承知で来たのか?」

 才蔵は、脇坂に今は鎖国令などなく、身分に関係なく誰でもカネさえ

払えばその日のうちにシャムにくることができると話した。

「その日のうちに? その方が時と時の間を瞬間に移動したように、場

所と場所の間も移動できるのか? それとも何か乗り物でもあるの

か?」

 才蔵は飛行機の説明をした。

「そんなものは信じられぬ」

 このアユタヤにいても空を飛ぶ飛行機を見ることはあるはずだ。才蔵

のジーンズやTシャツ姿も見たことがないようだ。―― もしや、この

亡霊達は昔の状況の中で今もいるのでは……

「その方達は今の時代の状況を知らないのか?」

「今の時代とは? 拙者と霧隠殿が話している今のこの時のことか?」

 不可解なことをいう奴だとでもいうように才蔵を見ながら、脇坂が言

った。

「拙者のような姿をした者を見たことが無いのか? 例えば、髪を結っ

ていない同胞を見たことはないのか?」

「オクン様もしや、この者は例のあの同胞と称する者達と同類ではない

でしょうか?」

 と脇坂が山田オクンに言った。

「真田家の家臣と言えば、我らも理解できる。だから例のあの者達と同

類ではないはずだが、言っていることはあの者達に似ている。そうかも

知れぬ」

「霧隠とやら、ちょっとこちらへ来てくれ」

 オクンが才蔵をどこかへ連れて行こうとしている。

 浅川六郎の手はまだ才蔵の腕に触れている。

「女子のように、そう触れておられては自由に動けぬで困る。離れてく

れぬか」

 浅川は黙って手を離そうとしなかった。




 オクンに連れられて来たところには、六人の亡霊がいた。

 二人は若い女性、スカートを穿いている。四人は軍服姿の男。―― 

才蔵はテレビドラマで第二次世界大戦の日本陸軍の軍服を知っている。

 四人の軍服姿の亡霊達は、タイの隣のビルマでの戦いの最中に栄養失

調で行き倒れになり、誰にも葬られず、バンコクまで戻ればなんとかな

なるだろうと思い、アユタヤまで来て、日本人町の亡霊に出会ったとい

う。



 二人の女性は日本からタイに出稼ぎに来たが、仕事が厳しくて、耐え

られず、逃げ出し、ジャングルの中で首を吊ったという。そして、この

アユタヤに来た。


 ==今回はここまで==




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拙者、才蔵 第一章 亡霊達 その5
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 拙者、才蔵でござる。


 昨日は失礼をいたした。何せ、一晩中張り込みをしていたも

ので、パソコンの前に座って、文章を打ち込むことのできる状

態ではなかったのでござる。

 えっ? 何の張り込みかと聞かれるのか。それは言えぬ。拙

者の職業は探偵でござる。

 依頼者の情報保護もその仕事のうちであり、聞かないで欲し

い。



 ==では、前回の続きを読んでくれ==


 浅川六郎が軍服姿の兵士達と四人の女性に霧隠才蔵を紹介した。タイ

ムスリップしたことも話した。




「おおーっ! 知ってる、知ってる。ラジオで講談の真田十勇

士を聞いたことがある。

 猿飛佐助に霧隠才蔵、三好清海入道、それに…… 忘れたが

真田幸村の家来真田十勇士だ」


 兵士の一人が驚いたように言った。

 別の兵士が、

「でも、それは架空の物語ではないのか?」

 才蔵は、苦笑いをしながら、「架空などではないわ。拙者がその霧隠

才蔵だ」

「では、あなたは未来のことも知ってるのですな?」

 才蔵がうなずくと軍服の亡霊が、

「我が祖国は戦争に勝利したのでありましょうな?」

 才蔵はタイムスリップしてから、テレビや新聞、書物である程度の歴

史は理解したがその知識は未だ浅い。この軍人達はビルマで戦っていた

という。才蔵の知識では、日本は日清戦争、日ロ戦争、日中戦争、太平

洋戦争は知っている。しかし、それらの戦争でビルマという場所が戦場

になったということは知らない。もしや、才蔵の知らない戦争があった

のでは、と感じた。

「その方達は、どこと戦ったのか?」

「どこと? どこの国と戦ったかを聞くのか? イギリスだが」

「では、アメリカは敵国か?」

「そうです、米英は共に敵国だ」

 ようやく、才蔵はこの軍服の亡霊達が第二次世界大戦の兵士であった

ことを知った。

「その戦なら、日本が負けた」


「そっ、そんな…… 神国大日本帝国が敗れるはずがない」


 その隣で別の兵士が

「そうか…… やはりな、わが国は負けたか…… 援護の飛行機も飛ん

で来ず、食糧も弾薬もなく、勝てるはずがないと思っていた」



「なっ、なにを! きっ貴様っ! 貴様は負けると思って戦っ

ていたのか!」


 その兵士は拳を振り上げ、相手の顔を殴りつけた。しかし、その拳は

相手の顔をすり抜け、空振りではないが、空振りのような格好になって

しまった。


「待て、待て! 仲間同士で喧嘩もなかろう、やめられよ!」


 山田オクンは二人の兵士の間に入ってやめさせながら、

「霧隠殿、この者達も同胞でござるか? 我らは今までこの者達が同胞

とは思えなかったのだが……」

「山田様よりもずっと、後の世の者達でござる。勿論同胞だ」

「すると我らは、どの程度の期間、こうしていたのでござろうか?」

「貴殿らは、時の長さが分からぬのか?」

「さっぱり、わからなくなってしまった。何せ、夜ばかりが続き、明る

い昼というときがない世界だ。あれから数年が経ったようにも思うし、

数百年が経過したようにも思える」

「凡そ、六百年が経っている」


「そっ、そんなに! そんなに永い期間、我らはこういう状態

が続いていたのか!」


「あっ、あのうー、私達の場合はどの程度の年月なのでしょう? 数カ

月のようにも思えるし、百年、二百年のようにも思えるのですが……」

 兵士達といた女性の一人が聞いた。

「その方達は、いつ頃生きていたのじゃ?」

「私達は大正九年に島原の鬼の池から船でこのシャムに来ました。十九

歳のときでした。そして、一年間辛抱しました」

「大正九年に十九歳? じゃあ、あんたは明治三十五年頃の生まれ

か?」

 兵士の一人が女性の顔をまじまじと見ながら言った。

「私は明治三十六年の生まれです」

「驚いた! 俺のお袋と同じ年の生まれだ!」

 才蔵は、女性と兵士のやり取りを聞きながら

「拙者は、明治という年号を知らぬが、おぬしらの戦いを第二世界大戦

と呼ぶそうだ。その大戦は昭和二十年というときに終わった。昭和は六

十三年まで続き、今は平成と呼ぶ。

 大戦が終わったのは凡そ六十年前だ」


「昭和二十年に戦争が終わった! その年の何月に終わったの

か知らないが、もう少し我慢できたら祖国へ戻れたかも知れん

なあー」


 という兵士の声に、他の兵士もうなずいている。


 ==今回はここまで==




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拙者、才蔵 第一章 亡霊達 その6
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「じゃあ、私達がこういう状態になって八十年?」

「おぬし達、こういう状態と言ったが、どういう状態なのか分かってい

るのか?」

 才蔵が亡霊達に聞いた。

「会うといえばここにいる者くらいで、他の誰にも会わず、食べること

や排便をすることを忘れ、夜だけが続く世の中の状態だ。あなたはこう

いう状態ではないのですか?」

 才蔵は「ふっ」と笑った。

「おぬし達はさまよっている霊なのだ」

「さまよっている霊?…… では俺達は死者ということか?」

 兵士の一人が才蔵に怪訝そうに聞いた。

「そうだ。おぬし達は亡くなって随分と経っている。誰にも弔われず、

亡霊となったのだ」

「あーっ、そう言えば、私達は首を吊ったんだ。―― だから死んでい

るんだ。首を吊って気を失い、気づいた時からこういう状態が続いてい

るんだ。

 早く死んだということに気づけばよかった」

 女性の一人が言った。間の抜けた話のようだが、亡霊達には不思議な

ことではないようだ。

「では、どうすればよいのだろう?」

「誰かが、私達を弔ってくれれば、あの世で幸せになれるのじゃあない

かしら」

「弔うといっても、俺達が亡くなった場所と随分距離があるぞ。

なにせ、ビルマの山奥だからな」

「弔ってくれなくても、霊を慰めてくれるだけでも、あの世に行って幸

せになれるかもしれない」

 成り行きを見ていた山田オクンが

「俺達は六百年もこの状態を続けてきたのだ。俺達もあの世とやらへ行

くべきだ……」

「しかし、あの世といっても極楽とは限りません。我らは地獄かも知れ

ませぬ」

 脇坂がオクンにつぶやいた。

「そうだな、俺達は戦で多くの殺生をしてきた。地獄かも知れぬ。でも

よいではないか。

 今のこういう状態が地獄であるとも言えるぞ。

 今の地獄から別の地獄へ移るだけだ。運がよければ極楽かも知れぬ」

 いつの間にか亡霊たちが集まって、山田オクンの言葉に皆うなずいて

いる。

「でも、弔うとか、霊を慰めるとか言っても、どうやって? 俺達は皆

死んだ者なんだろう? 誰が弔うんだ? 誰が霊を慰めるんだ?」

 亡霊の一人が言った。

「霧隠殿、おぬしに頼みたい。弔い、我らの霊を慰めてもらえぬか?」

 山田オクンが言った。

「拙者は僧侶ではない。その方法を知らぬが……」

 才蔵は言いながら、その頭にアイデアが浮かんだ。


 ==今回はここまで==




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拙者、才蔵 第一章 亡霊達 その7
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「おぬしらの中に、ここアユタヤで亡くなった者がいるはずじゃ。浅川

氏その方はアユタヤで亡くなったと言ったな。

 アユタヤで亡くなった者はその場所を教えてほしい。

 おぬし達の骨はおそらく土の中に埋もれているはずじゃ。そこを掘り

起こして、骨を見つければ、生きている多くの者が弔ってくれるはずじ

ゃ。

 なにせ、このシャムは信仰心の強い国じゃからな。

 骨を弔うと同時に霊を慰めるという方法だ」

「生きている者の世は、死んだものをなぐさめるほど余裕があるのか?

 平和なのか?」

「うん、この世のどこでも平和とは言わぬ。局地的に戦をしているとこ

ろもある。じゃが、大まかには平和で、それぞれの国を行き来してい

る。

 拙者もこうしてシャムに来ている」

「霧隠殿、先ず、拙者が亡くなった場所を教えよう」

 浅川六郎が才蔵の腕に手を触れたままで言った。そして、ある樹の下

を指差し、そこまで歩いた。




「拙者はここで亡くなった。今でもここを掘ってくれれば拙者の骨が出

てくるはずじゃ」

 才蔵は辺りの景色を観察し、凡その場所を知ろうとした。この樹が六

百年後の時代も立っているか、分からないのだ。何せ、今見えている風

景は六百年前のものだ。

「あのーう、手前はこのアユタヤで商いをしていた木村屋といいます。

 手前もここでアユタヤの兵に殺されました。骨はこの辺りに埋まって

いるはずでございます」

 その商人の亡霊が指差した場所は浅川六郎が示した場所から十メート

ル程度はなれている。

 才蔵は、ゆっくりと歩きながら歩数でその距離を確かめた。

 そうこうしているうちに、「私達は三十人が大きな穴に投げ込まれ

て、そこで生き埋めにされてしまいました」という者がでた。




 才蔵はひらめいた考えが実現すると思った。

「拙者がおぬしらを助けてやることができると思う」

 それを聞いた山田オクンは才蔵の肩に手を触れた。と、同時に浅川六

郎が才蔵の肩から手を離した。




 オクンは才蔵の肩に手を触れたまま、才蔵をさらに別の場所へと導い

た。

 そこは大きな屋敷の中、このような日本式家屋をアユタヤに来て見た

ことがない。

 これも亡霊にだけ見えるもので、実際にはすでになくなっているもの

だ。

 その屋敷の中で大きな目の風格のある男の前に連れ出された。

「父上、真田家の家臣、霧隠才蔵殿です。我らの霊をなぐさめてくれる

と言っています」

 その男が山田長政であった。


 ==今回はここまで==




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拙者、才蔵 第一章 亡霊達 その8
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「我らの霊? 我らのことを死者だというのか?」

 息子オクンの話に山田長政は問い直した。

 亡霊達の中には、自らを死者と思っていない者が多いようだ。浅川六

郎などは自分の死を理解している。

 オクンは先ほどまでの経緯を長政に説明した。

「するとわしは、凡そ六百年前に亡くなったというのか? では、当然

カラホムもいない。カラホムの子孫も途絶えているに違いない。

 我らは恨みを晴らすことができないというのか?」

「そうです。我らの願いであった、恨みを晴らすということはできませ

ん。

 我らは、ただ霊としてさまよい続けるだけです。今のこの状態が永遠

に続くのです。

 それでは、他の者が余りにもかわいそうです。

 この霧隠才蔵殿が弔うことのできるものは弔い、霊を慰めてくれま

す。

 それで全ての者が今の状態から抜け出ることが出来るかどうかはわか

りませんが、多くの者は極楽にいけるはずです。

 よろしいですね。父上」

「……

 やはり、そうであったか…… 昼のない夜ばかりが続き、眠りもせ

ず、食せず、便せず、歳を老いることもなく、生きているとは思えなか

った。

 …… ただ、恨みを晴らすという信念だけで今まで考えなかった。

 口に出さなくても、他の者の中には死を考えた者が多くいたであろう

な。

 気の毒なことをした。…… 早く気づけばよかった」

 長政は大きなため息をして、

「霧隠殿とやら、よろしく頼む」

 と言いながら頭を下げた。



 そこへ一人の武士が入ってきた。

「山田様、真田家の家臣が来ているそうですな」

「おお、里見殿、こちらが霧隠才蔵殿じゃ」

 里見は長政に軽くうなずき、才蔵に微笑んだ。

「うん、霧隠殿、脇坂から話は聞いた。

 我らも数奇な運命を歩んできたが、貴殿の運命も数奇よのう」

 才蔵は、次から次へと出てくる者達に興味をもった。が、…… 一人

ひとり聞くことはできない。

 浅川六郎から凡その話を聞いていはいるが、亡霊達がどうかかわてい

るのか知りたいと思った。


 ==今回はここまで==




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拙者、才蔵 第一章 亡霊達 その9
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 亡霊達を助けるためには、才蔵がここから離れて生きている者の世に

戻らなければならない。しかし、この亡霊達との会話に心地よいものを

感じ、別れたくないという感情がでてきた。

 才蔵が元いた時代の者達だ、だからお互いに理解できる。

 亡霊達は、六百年もの間さまよっていた。少しぐらい才蔵が長くこの

亡霊達につきあってもよいだろう。―― いや、やめよう。この亡霊を

助けるのが先だ。



 山田オクンが

「霧隠殿、では、よろしいか? 我らの霊を助けてくれることで他に何

か知りたいことがあるか?」

「いや、大丈夫だろう。拙者を生きている者の世に戻してくれさえすれ

ば、拙者がする」

「我らの知らない後の世のことを知りたいとも思うが、死者である我ら

はそれを知ったとしても、何にもならない。

 会ったばかりのおぬしに、助けてもらうのは心苦しいがよろしく頼

む」

 才蔵とオクンはお互いにうなづきあった。

 オクンが才蔵の肩に触れていた手を離した。






 才蔵はベッドに横たわっていた。隣ではミカが寝息をたてている。

 才蔵の体からけだるさが消え、生気がよみがえってくる。






 翌朝、才蔵とミカはホテルのレストランで朝食を取っていた。

「今日は何をする日だったかな?」

「今日はローズガーデン、バンパイン宮殿を見て、バンコクに戻る予定

よ」

「そうだったな、今日の予定を変えてもよいかな」

「変えるって? もうじきガイドさんが来る頃よ。私は構わないけど、

変更が出来るかどうかはガイドさんに聞いてみなければ……」

「では、ミカは構わないのだな」

「ええ、でもどうしたいの?」

「いや、なに、もう一度日本人町を見てみたいのだ」

 窓の外に才蔵たちのガイドが見える。ドライバーと話ををしている。

 ガイドと目があった。ガイドは手をあげ、才蔵に笑顔を向けた。そし

て、ホテルに入って来た。

「宮根さん、おはようございます。出発は三十分後ですが、いいです

ね」

 ガイドは流暢な日本語で言いながら、ミカに微笑んだ。

 ミカはその微笑から目をそらした。

 それを才蔵は横目で見ながら、

「今日の日程を変更してほしい。もう一度日本人町に行きたいのだが」

「えっ? でも、今日はローズガーデンとバンパイン宮殿、それからバ

ンコクへ戻ります」

「ローズガーデンとバンパイン宮殿には行かない」

「私はいいが、ドライバーが困ります。ドライバーに入る金が少なくな

ります」

 才蔵は一万円札を三枚、ガイドに渡した。才蔵はまとまったタイの紙

幣をもっていなかったので日本円にしたのだ。

「これをドライバーと分けてくれ」

 急にガイドの顔つきが変わった。

「いいですよ。変更ですね」

 タイの大卒の初任給の半額に相当する三万円にガイドは表情を変え

た。この金をガイドが一人で取るか、ドライバーに少し与えるか、それ

はわからないが、半々に分けるとは思えない。


 ==今回はここまで==



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拙者、才蔵 第一章 亡霊達 その10
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小説「才蔵」目次、紹介、あらすじ  【主な登場人物】

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「でも、日本人町の跡は昨日行きました。もう一度行ってなにをするの

ですか?」

「何もしなくてもよい。通訳をしてもらうぐらいだと思う」

 アユタヤの日本人町は才蔵がタイムスリップする前の時代と同じ時代

に栄えていたところだ。才蔵が何か物思いにふけりたいのだろう…… 

ミカはその程度に思った。




 車を降りた才蔵とミカ、ガイドの三人は車を降りて、日本人町を歩い

た。

 才蔵は昨夜のことを思い出しながら、先を歩いている。ミカとガイド

は後ろに続いている。

「ここだ」

 大きな樹の根元を指差した。

「えっ? 何がここなの?」

「ここに人が埋められている」


「えーっ! ひっ、ひとがーっ!」


 すっとんきょうな声をガイドが出した。


「宮根さん、面倒なこと、困ります」


「ここを掘ってくれ」


「だから、面倒なこと、こまります。できません」


「じゃあ、掘らなくてもよいから、警察へ電話をしてくれ。ここに人が

埋められていると」


「けっ、警察? ポリスはいけない、私、ガイドのライセンス

なくなってしまう。

 宮根さん、あっ、あなたが殺したのか?」


「違う、俺は殺していないが、人がこの下で死んでいるだけだ」




 ガイドとのやり取りに何が起こったのかと、人が珍しそうに集まって

きた。

 警官も来た。ガイドが呼ぶ手間が省けた。

 ガイドが仕方なさそうに、警官に話をした。

 その警官が連絡をして、パトカーが来た。

 才蔵とミカは旅券の提示を求められた。

「警察は、宮根さん、あなたが殺したのかと聞いている」

 ガイドの通訳に才蔵は応えた。

「違う、俺は殺していないが、人が埋められているのはたしかだ」

「では、なぜ人が埋められていると分かった」

「俺は感じるんだ、霊がここにいる。その亡霊の骨がこの土の下にあ

る。

 そして、他にも、そこと、あそこにも、あの辺りには三十人の骨があ

る」

 才蔵は指差しながら、警官に言った。

「もし、人が埋められてなかったらどうする? と警官が聞いている」


 ==今回はここまで==



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拙者、才蔵 第一章 亡霊達 その11
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「人が埋められていなかったら? そうだな…… 掘るためにかかった

費用を払おう。

 それでよいかな?」

 ガイドが警官に伝えた。

「デポジットを払えと言ってる」

「デポジット?」

「そう、あなたが言うだけで払えなかったら困る。だから、保証金……

 そう、保証金を払えと言ってる」

「幾ら払えというのだ?」

「二十万バーツ」

「日本円でも構わないか?」

「構いません。六十万円になりますよ」

 ガイドが言った。厳密に言えばこの日、一バーツは凡そ二.七円であ

った。五十六万円である。

 才蔵は知っていたが言われるままの六十万円を出した。

「人が埋められていたら、この金は日本円のままで返せよ。バーツに両

替をして返すことのないようにな!」

 バーツに両替えをして、才蔵に二十万バーツを返そうとするような魂

胆が、ガイドか警官に見えた。だから、バーツに両替えをしないように

釘を刺しておいた。




 そのとき、黒塗りの車が来た。

 スーツ姿の男が降り、才蔵の前にきた。

「日本大使館の者です。

 人が埋められていると言ったのはあなたですか?」

 才蔵はうなずいた。

「なぜ、人が埋められているなどと言うのですか? 人が埋められてい

るなど、本当はちがうのでしょ? 何の目的でそんなことを言ったので

すか?」

「人が埋められているから、言ったまでだ、何の目的もない。

 あるとすれば、埋められた者を弔ってやりたいだけだ」

「あなたは宗教家かなにかですか?」

「そんな者ではない。

 大使館とやらから、なぜここへ来る必要がある。俺に何が言いた

い?」

 才蔵は日本大使館とは何かを知らない。

「いえ、別に…… ただ、何かあったとき、大使館に助けを求められて

も困りますよ」

「なぜ、俺が大使館とやらに助けを求めなければならんのだ?」

「わかりました。そういうお気持ちなら安心しました。

 念のために、もう一度いいますが、たとえば警察に捕まって、大使館

に面倒を持ち込まないでくださいよ。いいですね」

 そう言った大使館員は車で去った。

「なんだ、あいつは。

 ミカ、大使館とは何だ、偉そうに、一人でしゃべって去ってしまっ

た」

「私もよく知らないけど、外国にある日本の役所よ」

「そうか…… 」

 ==今回はここまで==
 


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拙者、才蔵 第一章 亡霊達 その12
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 次に杖をついた老婆が何かを叫びながら才蔵の前に来た。才蔵に怒り

をぶっつけているようだが、タイ語である。意味が分からない。

 ガイドが言うには、

 この辺りはこの老婆がお祓いをして霊などいない、そして、土の中に

死体などないとも老婆が叫んでいるという。「おまえが殺して埋めたの

なら別だが」とも言ってるそうだ。

 周りに集まった人々の様子から、この老婆は霊媒師として信頼を得て

いるようにも見える。





 ブルドーザーが一台来た。才蔵が最初に示した場所、浅川六郎が埋め

られている場所だ。そこを掘り始めた。

 荒っぽい掘り方だ。――  浅川六郎の骨が壊されてしまう。

 霊媒師のお婆さんが叫んでいる前で、才蔵はもっと丁寧に掘ってくれ

と怒鳴った。

 そのとき、作業を見守っていた人々の間からどよめきが起こった。次

に人々は何か言い合うようになった。

「何があった?」と才蔵はガイドに聞いた。

「骨が出てきたそうです。 ……が、犬の骨かもしれない。猿の骨かも

しれないと言い合ってるのです」

「骨の周りを丁寧に掘るように言ってくれ、せっかく出てきた骨が壊さ

れてしまう」

 ガイドが伝えると手作業に変わった。

 また、どよめきが起こった。――  骨が何かをつかんでいるのだ。

「犬や猿が何かをつかむかな?」

 言いながら才蔵はにやりと笑った。




 霊媒師のお婆さんはいつの間にか姿を消した。

 才蔵は崩れそうな骨を両手でそっと持ち上げ、地面に置いた。

「これで夜の世界から出ることができたな、浅川六郎よ」

 才蔵は次の骨の場所を示した。

 とにかく、人間の骨が出てきたのだ。ブルドーザーで掘るのは同じだ

が、その掘り方は随分と丁寧になった。

 警官は本署へ電話を入れている。本当に人間の骨が出てきて驚いてい

るようだ。



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拙者、才蔵 第一章 亡霊達 その13
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 人骨が出てきたのである。当然、事件の可能性がある。アユタヤ警察

の本署から刑事や鑑識の者がぞくぞくとやってきた。

 早速、鑑識は浅川六郎の骨を調べ始めた。才蔵もガイドの通訳を通じ

て、刑事に取調べを受けている。

 鑑識が判断をしたのは速かった。「この骨は最近のものではない。数

十年、数百年かもしれない。それだけの年月が経過している」と刑事に

伝えた。

 才蔵を取り調べていた刑事の態度が急にやさしくなった。少なくとも

才蔵は殺人犯などではないと刑事も分かったようだ。

 鑑識の言葉をガイドから聞いた才蔵は、

「数十年、数百年…… 凡そ六百年だ。ここに日本人町があったそうだ

が、ここの日本人はアユタヤの兵に殺された。

 この骨はそのときのものだ。

 この男は浅川六郎という」

 と言いながら、骨を指差した。

 ガイドが才蔵の言葉を刑事と鑑識に伝えた。反応は取り巻いていた

人々の方が速かった。

 周りから「オーッ」という歓声があがったのだ。

 そうしたとき、才蔵が次に示した場所から骨が出てきた。

 もう、犬の骨とか猿の骨などと言う者はいない。




 才蔵は、移動して新たな場所を指差し、「この辺りに三十人が埋めら

れている」と言った。

 ガイドは周りの大勢に向って、


「この人が言うには、ここには三十人が

埋められているそうだ」


 と大声で、得意げに叫んだ。

 ガイドは才蔵の言葉を訳すたびに、周りから尊敬を集めているかのよ

うに感じているのである。

 どよめきが起こった。中には才蔵に向って手を合わせている者もい

る。

「ところでデポジットとやらで渡した金は返してくれるのであろうな」

 と、才蔵はガイドを通じて警官に言った。

「デポジット?」

 警官の上司と思われる者が振り向いた。

 警官はばつが悪そうに三十万円を才蔵に渡した。

 もしかして、この警官は才蔵のお金を自分のものにしようとしたのか

も知れない。



 才蔵は目の前の大勢の中に一人の僧侶と目が会った。

 その僧侶の前に行き、「ご僧の位は知らぬが、これらの骨を弔ってく

れぬか」と才蔵はいいながら、警官から戻った三十万円を僧侶に渡そう

とした。

 ガイドがそれを訳して伝えた。

 僧侶は両手を合わせて受け取りながら、何か言っている。

 この僧侶の寺は近くにあるらしい。寺の僧を集めて丁重に弔うとガイ

ドを通じて才蔵に言った。


 ==今回はここまで==




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拙者、才蔵 第一章 亡霊達 その14
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 その日の午後、大勢の人が集まってきた。テレビのカメラも五、六台

ある。中継車も四台来ている。

 ガイドがテレビカメラの前でしゃべっている。

 才蔵にマイクを向けたいが、才蔵がそれらを相手にしなかったのであ

る。だから、ガイドは得意絶頂だった。

 しかし、才蔵が遺骨の場所を的確に示したことは、そこに集まってい

る人々は知っている。集まっている報道の者もそれを知った。
 



 堀出された骨が山のように積み上げられている。その前に僧侶が百人

近く立っている。子供の僧侶も多くいる。

 僧侶の読経が始まると、骨に火がつけられ、炎が高く舞い上がった。

 あらかじめ、骨の山にガソリンが撒かれているのだ。

 凡そ六百年を経ている骨をもろく、炎に焼かれて意外に早く灰になっ

た。

 タイでは墓に遺灰を入れるという風習はないようだ。灰はアユタヤを

流れるチャオプラヤ川に流された。





 その夜、ホテルで寝ていた才蔵を呼ぶ声が聞こえてきた。

 才蔵がまぶたを開くと、ホテルの客室いっぱいに覚えのある亡霊達が

いた。

「霧隠殿、感謝する。我らを弔ってくれたお陰であのときから六百年が

経っていたことをようやく知った。

 ずーっと夜ばかりの世界だったが、今の昼の世界も見ることができ

た。

 これで安心してあの世とやらへ行ける」

 山田オクンの亡霊、いや、もう亡霊ではない。霊が言った。

「随分と変わったものよ、今の世に生きている者の楽しそうなこと、わ

れ等はうらやましい」

 笑いながら山田長政が言った。

「霧隠さん、私の生まれは熊本県の天草です。今の天草がどうなってい

るのか知りませんか?」

 スカート姿の女性の霊が言った。

「拙者は天草のことは知らぬが、おぬし達はあの世に行くのだ。もうよ

いではないか。この世のことを思うのは、

 これからは、おぬしの幸せだけを楽しめばよいではないか。

 今まで苦しんできたのだから……」

 才蔵が言った。

「そっ、そうですね、もう何も考えなくてもよいのですね」

 女の霊は泣きながら嬉しそうに言った。

「浅川氏……」

 才蔵は、浅川六郎の霊を呼んだ。

 沢山いる霊の後ろから浅川がすーと出てきた。

「浅川氏、その方のお陰で拙者も、久しぶりに元の時代の者と話すこと

ができた。

 礼をいう」

「とっ、とんでもない、礼を言うのはわれ等です」

 その声に同調したのか、霊達は頭を下げたのか、頭を揺らしたのか分

からないような動作を繰り返しながら、消えていった。


 ==今回はここまで==


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