小説集
長編小説を主とした小説集……1.小説「ゴエモン」−−2.小説「才蔵」−−3.小説「拙者、才蔵」−−4.「日本軍上陸−パタニ王国」(新連載)−−4つの小説をお楽しみください。
プロフィール

石川淳也

Author:石川淳也
【石川淳也】小説「ゴエモン」著者
高校三年生。現在、大学受験勉強に悪戦苦闘中。
ゴエモンは小学2年生のときに我が家に来て、8年間一緒に暮らしました。
この物語は、ゴエモンとの思い出に少しだけ脚色したものです。

【山崎ミカ】小説「才蔵」著者
現在、高校二年生。中学生のとき才蔵と出会い、二人で生活しています。この小説はミカと才蔵の不思議な関係と二人の活躍を少しだけ脚色したものです。

【宮根真司】小説「拙者、才蔵」著者
本名、霧隠才蔵。山崎ミカとタイへ旅行した際、不思議な出来事に遭遇した。事件もあった。それらを小説にしたもの。

【田中廣一】小説「日本軍上陸」著者
拙者、才蔵に出てくる山田長政、山田オクン、脇坂、里見等と不思議な体験により出会った。その体験を小説にしたもの。


【【【[ お願い ]】】】
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才蔵 第一章 平成の時代 No.14
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小説「才蔵」目次、紹介、あらすじ【現在進行中】 

小説「ゴエモン」目次とあらすじ(第一巻終了) 






 山崎ミカです。

 前回、放課後、中沢さん達四人が私を襲おうとしたところを、

才蔵さんに助けられました。

 四人は気絶してしまいました。

 今回は、その続きです。





 ==では、どうぞ!==


 四人は立ち上がり、カバンを持って歩き始めた。

「明日こそ、山崎を学校へ来られなくしてやろう!」

「でもさあ、山崎が学校へ来なくなったらいじめられなくて面白くなる

なるんじゃあない?」

「山崎がいなくなったら、他の奴をいじめれば良いよ」

「そうだね」

 才蔵は、四人を追い始めた。

 四人はコンビニに入った。



 四人がコンビニから出て来て、話しながら歩き始めた。

「あの店員、バッカじゃあないの。あの店員の時は安心して万引きがで

きる」

「でも、気をつけろよ。店長が店にいるときは、万引きに注意して見張

っているようだから」



 しばらくして、

「じゃあ、バイバイ」と手を振りながら四人は分かれていった。

 才蔵は中沢を追うことにした。



 中沢の家は小さな庭のある二階建ての家だった。周辺には同じような

家がいくつも並んでいる。

 中沢は、玄関から入ると黙って二階の部屋に入った。

 才蔵は一階の屋根に飛び上がり、二階の部屋に入った。




「恭子! 帰っているの?」

 一階から母親らしい声がした。



「うるせえな!」


 才蔵が忍び込んだ隣の部屋で中沢の声がした。中沢は一階へと続く階

段を降りながら、

「ああ、帰っているよ、何だよ?」



「恭子、何ですか! その言い方は! そんな風に育てた覚えは

ないよ。帰ってきたら、帰ってきたと言いなさい!

 本当に、お前は……

 学校で煙草を吸っていると言われて目の前が真っ暗になったよ」




「うるせえよ、ババア!」


 中沢恭子はふてくされて再び階段を上がった。

 才蔵は天井裏へ入り、中沢恭子の部屋を覗いた。

 部屋の中では、恭子はふてくされてベッドでかけ布団をすっぽりと頭

まで覆っていた。



 才蔵は、音も立てずにその部屋に降り、左手で中沢の口の部分を布団

の上から押さえた。同時に布団の上から覆いかぶさり、恭子が身動きで

きない状態にした。

 中沢はもがこうとしているが、才蔵の力によって、全く身動きできな

い。

『ふっ、ふふふ。中沢恭子』

 才蔵は、布団の上から中沢恭子の腹に低い声で響くように呼びかけ

た。

 もがこうとした中沢の体がビクッと一瞬止まった。

『中沢恭子、お前の母親は悲しんでいるぞ、親を悲しませるような者は

人間ではない。

 今から、お前を殺す…… 良いな』

 中沢は何か言おうとしている。才蔵の手にそれが伝わってきた。

『言いたいことがあれば、心の中で言え』

『助けて、助けてください』


『お前は、親を悲しませているばかりでなく、いじめもしている

であろう。

 なぜ、他人をいじめるのじゃ。その訳を言ってみろ』


『殺さないで下さい』

『お前が正直に応えなければ殺す。正直に応えれば、今回は許してやろ

う。

 どうだ、正直に応えられるか?』

『応えます! 正直に応えます!』

『では、なぜ、山崎ミカに対していじめを行なう?』

『……

 ミッ、ミカが私をいじめるから…… そっ、それで……』

『ほう! ミカがお前をいじめているのか?』




『そっ、そうです。いじめられているのは

私です』




『そうか…… では今日、山崎ミカをトイレに押し込んだのは、

なぜじゃ?

 学校の裏へ連れて行ったのはなぜじゃ?

 三日前、お前が山崎ミカの顔に煙草を押し付けようとしていた

のはなぜじゃ?

 お前が正直に言えば助けてやるといったが、お前は正直ではな

いな。

 ふっ、ふふ』


 中沢は、三日前に知らないうちに自ら煙草の火を頬に押し付けたこ

と、今日はトイレで水をかぶり、あるいは、学校の裏で気を失ったこ

と。これらは自分に襲いかかろうとしている何者かが行なったことでは

ないかと思った。


 ==今回はここまで==



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 美奈子で〜〜す。

 中沢恭子を懲らしめれば、胸がスーとするが、一方で、才蔵さんがど

こまでやるかが、心配ね。

 だって、才蔵さんがやってることって、中沢恭子を本当に殺すんじゃ

あないかと思うもの。

 タイムスリップして現在にきたばかりの才蔵さんは、今の私達の常識

とは違う常識をもってると思うのね。だから、心配なの。

 才蔵さん! 中沢恭子は悪い奴だけど、殺さないでね。





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才蔵 第一章 平成の時代 No.15
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小説「才蔵」目次、紹介、あらすじ【現在進行中】 

小説「ゴエモン」目次とあらすじ(第一巻終了) 




 山崎ミカです。


 前回、才蔵お兄さんは中沢恭子さんにいじめをやめると約束さ

せ、彼女の左肩の間接を外しました。


 今回は、その続きです。




 ==では、どうぞ!==


 中沢は、掛け布団から顔を出して、「はあ、はあー」と荒い息をし、

ベッドから起き上がるために左手をつこうとした。とっ…… 急に左肩

に激痛が走った。おまけに左腕を自由に動かせない。




「わーっ!


 助けてー、助けてー!」



 大声で叫び始めた。

 母親が驚いて中沢の部屋に入ってきた。

「大きな声を出して、どうしたのよ?」




「救急車を呼んで! 早く、早く。


 肩が痛いよー、痛いよー!」



「見せてごらんなさい」



「うるさい早く呼べよ、早く!」




『中沢恭子、親には丁寧に接すると約束をしたのではなかった

のか!』


 才蔵の声が恭子の腹に響いてきた。


「おかあさん、救急車を呼んでください。

左肩が外れて動かないんです」


 母親はなぜ、そうなったかは分らないが、恭子の腕がぶらりとさがっ

ているのを見た。




「きゃーっ!

 どっ、どうしたの?

 待っててね、救急車を呼ぶから」




 母親は一階に降りた。

 才蔵は、その間に天井裏から廊下に降り、中沢の部屋に再び入った。

 中沢の右肩を掴むと、右肩の関節も外した。

 それらの素早い一連の才蔵の動作は、中沢には見えていない。


『約束を破って、親にぞんざいな言葉を使ったので、右肩の間接

も外したぞ。

 二度と約束を破るな!』


 中沢は、右肩を見た。右腕もぶらんと下がった。

 ベッドに座った状態で、左右の腕がぶら下がっている哀れな姿になっ

た中沢は、さらに大きな声で泣き出した。

『拙者との約束を大きな声で言ってみろ!』

 天井裏に戻った才蔵は言った。




「山崎ミカの言うことはなんでも聞きます。

 いじめはしません。


親には丁寧に接します」




 中沢は、涙声を交えて叫んだ。



『はっははは、忘れるなよ』

 才蔵が中沢恭子の家の屋根から飛び去ろうとしたとき、救急車の音が

近づいてきた。



 才蔵はマンションに戻って、中沢は明日からいじめをしないであろう

とミカに伝えた。

 しかし、ミカには、なぜか才蔵が不機嫌そうに見えた。



 翌日、ミカの学校の昼休み、中沢と一緒にいる女子生徒の一人、松下

がミカの側に立った。

「お前、ちょっと来な!」

 と言って、ミカの腕を取って教室の後ろへ連れて行こうとした。

 その時、中沢恭子が松下の腕を取った。


「ちょっと待てよ! ミカ…… いや、山崎さんをいじめると承

知しないよ」


「えっ? 何言ってんのよ」

 松下は、中沢の腕を振り払った。

「うっ!」

 中沢はうめいて肩を押さえた。

 中沢恭子は、昨夜病院で両肩の関節を元に戻してもらったが、痛みは

まだ残っている。

「山崎さんをいじめたら、私がお前をいじめるよ」

「どうしたんだよ?」

 松下は、中沢の肩に手を置いて言った。




「いっ、痛ー! どっ、どうもしないよ。

 とにかく、いじめると承知しないよ」



「分ったよ」

 松下は、中沢の肩から手を降ろした。

 それを見ていた生徒達は、

「おいおい、どうしたんだ?」と言い出した。

 ミカも信じられなくて、あっけに取られていた。




 授業が終わって、学校を出たミカの隣に才蔵がいつの間にか並んで歩

いていた。

「ありがとう、お兄さん。中沢さんに何かしたのでしょ?

 でも、中沢さん、どうして私をかばうようになったのかしら?」

 才蔵は、黙っている。

「どうしたの。急に黙っちゃって」

「うむ!」

 才蔵は何か考えているようである。


==今回はここまで==




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 美奈子で〜〜す。


 左肩だけでなく、右肩の関節も外してしまうなんて、才蔵さんって、

残酷ね! でも、中沢恭子にはあそこまでやらないと、いじめはやめな

かったかもしれませんね。

 話をしていじめをやめさせるという方法もあるけど、話をするって方

法は、タイミングが重要なのね。

 例えば、中沢恭子が、「私って、なぜ、こんなことをしてるんだろ

う?」といった自分自身に対する疑問を少しでも持ったとき、上手に話

せば反省もさせやすいのよね。

 そのタイミングを見ずに、色んな人が話して、反省を求めてもほとん

ど、効果なし。これって、みなさんも覚えがあるでしょ?





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才蔵 第一章 平成の時代 No.16
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小説「才蔵」目次、紹介、あらすじ【現在進行中】 

小説「ゴエモン」目次とあらすじ(第一巻終了) 




 山崎ミカです。


 前回、私と才蔵お兄さんが並んで歩いているとき、お兄さんは

何か深刻そうな顔、中沢恭子にいじめをやめさせることができた

というのに…… なぜ?


 今回は、その続きです。



 ==ではどうぞ!==


 ミカは、昨日の不機嫌そうな才蔵の様子を思い出し、不安になった。

―― 才蔵がどこかへ行ってしまうのではないかと思った。

 ミカと才蔵は偶然知り合っただけで、特別に太いつながりはない。

 ミカは戦国時代から来た才蔵に興味をもって、一緒に暮らし始めたの

であるが、いじめから助けてもらい、才蔵を大切な人間と思い始めてい

た。―― ミカは才蔵と離れたくない。

 その時才蔵が喋った。

「ミカの夢は何であるか?」

「夢?夢って、希望という意味の夢?」

「さようじゃ」

「考えたことなかったわ」

「じゃあ。なぜ、学校へ通っているのだ?」

「さあ? 学校へ行かなければならないから、行っているんじゃないか

しら?」


「じゃあ、幸せとはミカにとってどのようなことなのじゃ?」


「うーん、楽しいことをしているときかしら。

 難しいことを聞くのね。

 急に黙ったりして、そんなことを考えていたの?」


「ああ、拙者らは戦国の世に生き、不幸だと思っていた。だから

戦のない時代をのぞんでいたが、戦のないこの時代を見ると、

何が幸せなのか分らなくなった」


「戦争の時代が幸せというの?」

「そうじゃあない。戦をしてはいけない!

 じゃが、戦がないこの時代…… 見ろミカ、あの人達を」


 才蔵は、道行く人々を顔で差し、話しを続けた。


「あの人達は、楽しい顔をせず、悲しい顔をしているわけでもな

い。無表情な顔の人ばかりじゃ。

 おまけに、学校ではいじめとかがある。いじめは楽しいという

奴がいる。

 いじめにあっているのはミカだけではなかった。それぞれの教

室に一人か二人はいじめられている者がいる。

 何を希望に生きているのか分らないのじゃ。

 いや、希望がないから、いじめ等をするのであろう。希望がな

いから大人は無表情になるのであろう。

 戦国の世は、いつ殺されるか分らないという危機感があった。

 戦はいかん! 傷つく者や残された者は苦しみや悲しみを背負

う事になる。

 じゃが、大人達は、子供と同じ笑顔や悲しい顔をしていた。表

情が豊かじゃったのじゃ。

 理由は、戦国の世とは言いながら、太閤によって、世の中は

平定され、関ヶ原と大阪城での戦はあったが、これから良い世の

中が来るという希望があったからだと、今は思う。

 希望があって、お互いに助け合っていたので、幸せだったの

だと思う」


「私には分らないわ。でも、戦争の時代よりも、今が不幸とは思えない

けど……」



 その日の夕刻、ミカと才蔵はテレビを見ていた。

 画面では、タイを芸能人が旅するという内容の番組をしていた。

 才蔵が言った。


「見ろ! この笑顔だよ。

 今の時代のこの国には、この笑顔をしている人がほとんどい

ない」


 画面には、タイの男女の笑顔が写っていた。

「そうかーな? 日本でも同じような笑顔をする人もいると思うんだけ

ど」

 才蔵が、黙り込んだ。−− 才蔵の言いたいことがミカには分かって

もらえない。

 しばらくして、再び才蔵が言った。

「学校で使っている地図があるであろう。それを見せてくれないか」

「ええ、いいわよ」

 ミカから渡された地図を開いた。

 才蔵は驚いた。このように精密な地図は見たことがない。

 広島の位置、大阪や江戸、すなわち東京の位置を教わった才蔵はミカ

に伝えた。

「しばらく、全国を旅してみようと思う」



「えーっ! じゃあ、出て行くっていうの?

 なぜ、そんなことを言うの?」



 ミカが抱いた不安は適中した。



  ==今回はここまで==


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 美奈子で〜〜す。

 才蔵さんは何を考えているのでしょう?

 才蔵さんは、昔忍者として多くの土地を旅したのかも知れないね。そ

して、タイムスリップしてミカさんと一緒に何日かを過ごし、この時代

の様子もわかり、昔訪ねた土地がどう変わったのか見たいと思った。―

― と,私は考えるのだけど、当たってるかしら?




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才蔵 第一章 平成の時代 No.17
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小説「才蔵」目次、紹介、あらすじ【現在進行中】 

小説「ゴエモン」目次とあらすじ(第一巻終了) 




 山崎ミカです。


 前回、才蔵お兄さんは、「この時代の人間は無表情な者ばかり

だ」と言いました。あのときは、お兄さんの言ってること、私に

は分かりませんでした。―― でも、数年後の今ではわかります。


 理解しあってるはずの夫婦でも、夫と妻という立場の違いから

意見の相違ってあるでしょ。−− だから離婚になるのね。

 先生と生徒でも立場が違うから同じ教室にいても対立すること

があるのね。


 あのときの私と才蔵お兄さんの違いは、私は現代の日本しか知

らない立場で、一方、才蔵お兄さんは過去の時代と現代の両方を

比べられる立場にいたのね。―― だから、あのとき、お兄さん

の言葉の意味がよく分からなかったの。

 でもね、この小説の後、私と才蔵お兄さんの二人は何度かアジ

アの途上国を旅行し、そこで出会ったのは今の日本では出会わな

いような人が多くいたの。それで、私、お兄さんの言葉の意味が

わかったっていうわけです。



 ==では、今回もどうぞ!==




「この広島の人達だけが無表情なのか、今は日本というこの国の

どこでも同じことなのか、確かめたいのじゃ」


 才蔵は昨夜の中沢恭子が言った、いじめが楽しいという言葉が重く頭

に残っていたが、それはミカに対して言わなかった。


「どこに行っても同じだから、出て行くなんて言わないで!」


 ミカは泣いている。

「帰ってくることを約束しても駄目か」


「だめよ! お兄さんがここから出ていっても、暮らしていけな

いよ」


 ミカはなんとか才蔵を思いとどまらせようとしていた。

「十日のうちに必ず帰ってくる」

 ミカは、これ以上引き止めると才蔵が嫌気を感じて、二度と戻って来

ないかも知れないと思った。

「どうしても行くのね。じゃあ、十日以内に必ず帰ってきてね」

「うむ、約束じゃ」




 一時間後、才蔵は、山陽自動車道を東に走る車の上にいた。

 道路標識を見て走っている位置を確認した。

 大阪に近づいた頃、車から飛び降りた。

 大坂の戦の跡を見たかったのである。

 大凡の見当をつけて大阪城に向かった。

 光に浮かび上がった大阪城を遠くに見ることができる。

 周辺の景色は広島と同じであり、佐助や幸村が生きていた時代のもの

とは異なる。

 大阪城にたどり着いた。−− 様子が違う。−− 一部ではあるが、

埋められたはずの堀がある。

 いくつもあった大きな建物のほとんどがない。−− 天守閣はあるが

才蔵の知っているものとは違っていた。

 天守閣に登る。―― 中はコンクリート製、―― 才蔵は心のどこか

でタイムスリップなどあり得ないと思っていたが、確かに、幸村や佐助

等と共に戦った時代とは異なる時代、しかも未来に来てしまったことを

納得せざるを得ない。

 幸村の命令で秀頼を助け出そうとしたのは、五日前のこと、−− 信

じられないが、信じなければならない。

(佐助、おぬしは四百年前の人間なのか)

 ミカから貰った腕時計をみると十二時であった。




 夜空を明るく照らす方向、すなわち歓楽街の方へ向かった。

 夜だというのに、広島以上の賑わい、−− 人々は、酒に酔い、至る所で食している。

 現在の日本の人口は一億二千万人を超えているが、江戸時代の人口は

三千万人にも満たない。

 戦国時代はもっと少ないと思える。だから才蔵は、日本第二の都市大

阪では人の多さに圧倒されたのである。

 一方、人が多いのに、広島から大阪に至るまで食糧を得るための田畑

が少ないように思えた。

(何という人の多さ、―― この人々に食わせる米はどこで作っている

のだ?)


 才蔵には分らないことだった。




 ビルの上から眺めていた才蔵は、下の路地をフラフラと泥酔して歩く

若い男をみた。

 才蔵は屋上から飛び降り、男の前に立つと、その男の首を拳で強く打

って気絶させた。

(すまぬ、悪く思うなよ)

 人目につかない場所へ連れて行き、才蔵はその男の服を着た。

 スーツ姿である。スーツの内ポケットに財布が、―― 五万六千円入

っている。

 才蔵は、路地から明るい場所へ歩いて出た。






「おい、もう一軒行こう! まだまだ、夜は続くぞ」


 酔っ払いのグループが千鳥足で歩いている。いずれもスーツ姿であ

る。

 才蔵は、そのグループの後に続いて居酒屋に入った。

 客が注文をする声を真似て、別のテーブルで才蔵も注文した。

 ビールと焼き鳥が出てきた。

 才蔵はビールを飲みながら、男達の話しを聞いていた。

 上司に対する批判ばかりが延々と続いている。

 他のテーブルも同じような話しをしている。

 才蔵の時代、上司に対する批判を感じても、それを酒の肴にして大勢

で延々と楽しむというようなことは考えられない。

 人間の卑しさを感じた。




 翌日、才蔵はビルの中で働く人々をみた後、名神高速道路を東に走る

車を利用して、名古屋に着いた。

 名古屋までの高速道路上から、切れない家並みや広く広がる水田を見

た。


(しかし、あの田畑でこれだけの人の食を賄うことは不可能と思

うのじゃが、いかにしておるのであろうか?)


 日本が外国から大量の食糧を輸入していることなど、才蔵の想像の及

ばないことであった。

 名古屋で、才蔵は歩道を歩く人々を眺めながら思った。

 太閤秀吉が大坂城を築いた頃の賑わい以上の賑わいが、今の世には至

るところにあると才蔵は感じていた。




 その夜、寝場所を探すために名古屋の夜を飛んでいた才蔵は、一人の

スーツ姿の男が五人の若者に棒のようなもので殴られているのを見た。

 その側に降りた才蔵が低い声で言った。


「何をしておる! 一人に多勢とは卑怯であろうが」


「何言ってんだ。おい、やばいから逃げよう」

 五人の若者は走って逃げた。

 倒れているスーツ姿の男に才蔵は声をかけた。

「しっかりしろ! もう大丈夫だ」

「うーん、うーん」

 よく見ると頭から大量の血を流している。―― この様子ではこの男

は死ぬ。―― 助けられそうもない。

「しっかりしろ! 身寄りの者でもいるのか」

「私は、私は…… 両親は死んでいない。家族はいません。

 それにしても悔しい。高校生にやられるとは……」

「やった奴を知っているのか?」

「知りません」

 そこまで言った男はぐったりとした。

 才蔵は男の胸に耳を当てた。−− 心臓音が聞こえない。


 ==今回はここまで==



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 美奈子で〜〜す。


 この小説で初めての…… いえ、ゴエモンも含めた小説集で初めての

殺人事件が起こりました。

 えっ? 徳川家康を才蔵が殺したじゃあないかですって? あれは事

件でも事故でもありません。戦のさ中の行為です。

 才蔵さんはこの事件をどうするのでしょうか?




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才蔵 第一章 平成の時代 No.18
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 山崎ミカです。


 前回、才蔵お兄さんは大阪、名古屋と移動、―― 名古屋で五

人の若者に殴られている男を助けようとしましたが、その男は死

んでしまいました。

 この亡くなった男が才蔵お兄さんの将来に関係してきます。

 小説「ゴエモン」を読み終えた人は、美奈子ちゃんのコメント

を思い出してください。どのように関係するのか?―― 次回の

No.19で…… ピン! と何かを感じると思います。



  ==では、どうぞ!==


 才蔵は、ポケットをさぐった。

 財布はなかった。運転免許証と名刺入れがあった。

 その運転免許証と名刺入れを取った才蔵は、先ほどの若者が逃げた方

向に飛んだ。−− 五人の高校生達が公園にいた。




 才蔵は、五人の側に立っている樹の茂みの中に入った。

「しけてやがるな、一万二千円だぜ」

 高校生達が立ち上がったときに、彼らの前に才蔵が現われた。

 才蔵は街の明かりを背にしており、高校生の方からの明かりはない。

 だから、高校生達からは才蔵の影だけが見えた。


才蔵の影


「だっ、誰だ?」

 一人が叫んだ。

「男は死んだぞ! おぬし達どうする」

「えっ? 死んだー! おい、どうする?」

 高校生の一人が、仲間に向かって言った。


「何言ってんだ。俺達がやったって証拠があるのかよー!」


 別の高校生が才蔵に言った。


「あの男に代わって、拙者がお前達を成敗してくれよう」


「何言ってんだ。こいつ」

 一人が才蔵の方に向かってきたが、才蔵の影が消えた。

 才蔵は、闇の中へ動いたのである。闇の中を素早く動きながら、五人

の足の間接を外した。五人が倒れるとき、腕の関節も外した。

 才蔵は、五人の高校生が地面に転がるまでに、足と腕の関節を外した

のである。

 高校生達は、何がなんだか分らない状態で、うめき声を出した。

「天罰と思え!」

 明かりを背にして、高校生達の前に影を現し、才蔵は言った。



「たっ、助けてくれー!」


 才蔵は、返事をせずにその場から立ち去った。―― と、見せかけ

て、実は高い樹の上から様子を見ていた。

 高校生達は、その場から逃げようとしていた。しかし、両腕と両足の

間接を外されていてはどうしようもない。


「おい。どうする? このまま見つかったら、俺らは殺人犯とし

て捕まってしまうぞ!」


 動けない状態で話しをしている。


「俺達をこんな状態にした奴が殺したことにすればいいんだ!」


 一人が言うと、残りの四人は同意した。自分達が助かるという浅はか

な見込みに勇気づけられたようだ。



「助けてくれー!」


 彼らは大声で叫び始めた。

 その声に驚いた人々が、その公園に入り、−−恐る恐る高校生達に近

づいてくる。

「あんた達、どうしたのかね?」

「たっ、助けてくれ! 救急車を呼んでくれ!」

 一人の男が携帯電話で救急車を呼んだ。

 高校生たちも携帯電話は持っているが、関節を外されているので腕が

動かない。ポケットから携帯電話を出せなかったのだ。

「警察は呼ばなくても良いのかね?」



「けっ、警察? 警察は絶対に呼ぶなよ!」


 公園に人が多く集まってきた。



 しばらくして救急車が来た。

「どうした?」

「両手と両足が動かないんだ。早く助けてくれ!」

 救急隊員は、五人共全く同じ状態であることから異常を感じて周囲に

集まった人に聞いた。

「誰か警察へ連絡をしましたか?」

「いや、この人達が警察へは連絡するなというものだから」

 と携帯電話で救急車を呼んだ男が応えた。

 その言葉によって、救急隊員は警察へ連絡をした。



「大変だー! 人が死んでいるぞー」



 一人の男が血相を変えて駆けてきた。

 救急隊員は、高校生達に向かって言った。

「君たちー、君達がやったのか?」

「俺達をこんな目に遭わせた奴が殺したんだ。

 それよりも早く病院へ連れていってくれ」

「君達の両腕と両足は間接が外れているだけのようだ。死ぬことはない

から安心しろ。

 君達を警察へ見せてからでないと病院へ運ぶことができそう

にないな!



 ==今回はここまで==




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 美奈子で〜〜す。

 前回、「この亡くなった男が才蔵お兄さんの将来に関係してきます」

とミカさんがコメントしていましたが、何か、ピンと感じましたか? 

 そうなんです。私も驚いちゃった!

 私はこの小説が始まるまで、ずーっと、才蔵さんのこと宮根さんと思

っていたんだから…… 才蔵さんは宮根という偽名を才蔵さんが使って

いたのよね。

 でも、才蔵さんが無くなった宮根という人の名前を使うようになるの

は、ずーと後のことで、それも、ある理由によるものだそうです。






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才蔵 第一章 平成の時代 No.19
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小説「才蔵」目次、紹介、あらすじ【現在進行中】 

小説「ゴエモン」目次とあらすじ(第一巻終了) 




 山崎ミカです。

 才蔵お兄さんの行くところ、何かが起こります。

 と…… 言うより、お兄さんが起こしているともいえるので

すが。

 なお、今回で「第一章 平成の時代」は終わりです。次回から

「第二章 事件発生」です。私には悲しいことですが…… ご期

待ください。



 ==では、どうぞ!==


 その後、パトカーが来て、周辺はもっと騒がしくなった。

 鑑識と呼ばれる警察の者が写真を撮ったり、地面を調べている。

 高校生達は、外された関節を元のようにしてもらっていた。

 高校生達に事情を聞いている者、死んだ男を知っている者がいないか

どうかを聞いている者などの警察の仕事ぶりを才蔵は樹の上から眺めて

いた。

 一通りの調べが終わった後、パトカーは高校生達を乗せて立ち去っ

た。

 才蔵は、鑑識の車の屋根に乗って、鑑識の建物に入った。




 才蔵はそのまま二日間鑑識の建物の中で、鑑識の作業を天井裏から眺

めていた。

 鑑識は、殺された男の血液と鉄棒に付着した血液が同じ人間のもので

あることを確認し、その鉄棒についていた指紋と高校生達の指紋が同じ

であることも確認をした。

 才蔵が興味を引いたのは、鑑識が殺された男の死体から生前の食事の

内容、虫歯の治療の様子などを明らかにしていったことである。

 しかし、死体とはいえ、体を切り開き臓器の中を調べる作業は、才蔵

の倫理観から信じられないことであった。




 才蔵は、殺された男の運転免許証と名刺入れをみた。

 男の名前は、運転免許証から宮根真司であった。また、名刺入れには

二十枚の名刺が入っていたがそのうち八枚が宮根のものであり、宮城県

仙台市の奥羽商事仙台支店となっていた。残りの十二枚の名刺は宮城県

のもの、愛知県名古屋市のものなどで、いずれも宮根とは異なる名前で

ある。

 運転免許証をもう一度見ると、本籍欄に長野県の住所が明示されてい

た。

 才蔵は、この運転免許証と名刺は何かの役に立つと感じ、持っておく

ことにした。



その後、才蔵は東京に向かった。



 ==今回はここまで==



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 美奈子で〜〜す。

 第二章も楽しみですね! でも、なぜ? ミカさんにとって悲しいこ

ととは……





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才蔵(サイゾー) 第二章 事件発生 No.1
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 山崎ミカです。

 才蔵お兄さんは未だ戻ってきません。

 中沢恭子のいじめはなくなりましたが、できればお兄さんに

戻って欲しいと思っています。


 今回から第二章が始まります。



  ==では、どうぞ!==



      
第二章 事件発生



 ミカに対するいじめはなくなった。一度、いじめられそうになったこ

とがあったが、中沢が助けてくれた。

 才蔵が広島を出て六日目の日の深夜、いつものように母親の慶子が帰

ってきた。

「ただいまー」

 居間に入った慶子は「はーっ」と息を吐いてソファーに腰を

下ろした。

「ママ、疲れたの?」

「うん、ちょっとね。

 今日の新聞、持って来てちょうだい」

 ミカが新聞を渡すと、慶子は新聞のページをせわしくめくり、中間辺

りのページになったときに、一つの記事にじっと目を向けていた。

「どうしたの?」

「何でもないわ。疲れたから、このまま寝るわね」

 新聞をテーブルに置いて、慶子は寝室へ入った。



 翌朝、ミカが学校へ行くためにマンションを出るまで、慶子は寝室か

ら出てこなかった。

 ミカは慶子に寝ていればよいといつも言っていたが、朝食の準備だけ

は毎日慶子がしてくれていた。




 ミカが学校から帰ると慶子がいた。

「ママ、どうしたの?」

「うーん、体がだるくて今日は休むことにしたのよ」

「そう、じゃあ私が夕食を作るから寝ててね」




 翌日も慶子は仕事を休んだ。

「ほんとに大丈夫?

 病院へ行った方がいいんじゃあない」


 母一人、娘一人の生活、ミカは不安になっている。

「大丈夫よ、病気じゃあないんだから。何となく体がだるいだけなんだ

から。

 二日休んだから、明日は仕事に行けそうだわ。

 心配しないでね」

「そう…… ならいいけど。無理しないでね」


 翌朝、ミカが起きると慶子がすでに朝食の準備をしていた。

「ママ、大丈夫なのね。良かった」

「心配かけて、ごめんね。今日から仕事にいくわ」




 その日の夜、慶子は帰って来なかった。

 ミカは慶子を待ちながら、テーブルに顔を伏せてうとうととしてい

た。

 深夜の三時、テラスから窓ガラスをコツコツと叩く音がする。

 その音に気づいたミカは窓の向こうにスーツ姿の才蔵をみた。

「おにいさん、帰ってきたのね」と言いながらガラス戸を開けた。

 才蔵は九日目に帰ってきた。

「まだ起きていたか」

「ママが帰っていないの。こんな時間になっても帰ってこないなんて、

今までなかったのに……」

「そうか、心配だな。仕事先の場所を教えてくれ。行ってみよう」

「ちょっと待っててね。着替えるから」

「いや、拙者一人で行ってみる。ミカは待っていなさい。母上が帰って

くるかも知れないから」

 才蔵は、慶子が広島の中心街紙屋町の裏路地にあるホワイトホースと

いうバーで働いていることをミカから聞いた。

 歳三は、テラスから地面に飛び降りた。



 ホワイトホースは四階建ての雑居ビルの二階にある。ドアは閉まって

いた。

 周囲を探ってみたが、店の中に入れる場所はなかった。

 やむなく才蔵は周辺のビルの上を飛びながら慶子らしき者を探した

が、無駄であった。




 二時間して才蔵は帰ってきた。

「ホワイトホースのドアは閉まっていた。待つより方法がない。ミカは

寝ていなさい」

 ミカは自分のベッドに横になったが寝つけなかった。寝たのか寝てい

ないのか分らない状態のときに、才蔵の声が腹から響いてきた。

『ミカ、起きろ。誰かが来ている』

「えっ、ママが帰って来たの?」

『いや、違う』

 ミカの耳に入り口のドアを乱暴にドンドン叩く音が聞こえてきた。

 慌ててミカはベッドから跳ね起き、ドアに向かった。


 ==今回はここまで==



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 美奈子で〜〜す。

 ドアを乱暴に叩く者はだれ? お母さんが戻ってこないことと関係が

あるの?

 ミカさんのお母さんが働いている広島市の紙屋町、行ったことはない

けど、たぶんあの辺りかなって思うの。

 中学校の修学旅行で広島に行ったのね、そのとき、班別の行動で原爆

ドームに行ったの。

 地図で見ると、原爆ドームのそばが紙屋町で、広島カープの市民球場

もそばにあるのね。なつかしいな!




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才蔵(サイゾー) 第二章 事件発生 No.2
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 山崎ミカです。

 前回、お母さんが戻ってきませんでした。こんなこと、初めて

です。 才蔵お兄さんが探しましたが、いませんでした。

 そんなとき、ドアを乱暴に叩く音が……


 今回は、その続きです。



 ==では、どうぞ!==


 ドアを開くと二人の男と一人の女がいた。

「山崎慶子さんのお宅ですね」

「はい、そうです」

「お嬢さんですか?」

 ミカがうなずいた。

 男の一人が黒い手帳を見せながら言った。


「広島警察署の者ですが、お嬢さん一人ですか? お父さんは?」


「パパは二年前に亡くなりました。今はママと二人で暮らしています」

 刑事は、話しを続けて良いものかどうか思案しているようであった。

「あのう、ママがどうかしたのですか? 昨夜帰ってこなかったので心

配していたのです」


「そうですか。―― 実は、山崎慶子さんと思われる死体が太田

川で見つかったものですから……」


「えっ! ママの死体?」

 ミカは気を失った。

「しっかりしなさい。 山崎さん、山崎さん!」

 崩れ落ちるミカの体を支えた刑事が叫んだ。

 ミカの体を抱えると、その刑事は靴を脱ぎ中に入った。

 才蔵はバスルームに消えた。

 刑事はミカを居間のソファーに寝かせ、部屋の様子を眺めていた。

『ミカ! しっかりしろ!』

 ミカの腹から才蔵の声が響いてきた。いつもよりも強い響きである。

「おにいさん…… ママが……」

「おお! 気がついた、良かった、良かった!」

 先ほどの刑事がミカの側に腰を下ろした。

「お嬢さん、大丈夫かね」

「ええ、すみません。

 あのー、ママが亡くなったって、嘘ですよね」

「いや、死体が山崎慶子さんと断定したわけじゃあありません。

 それで、お嬢さん気の毒だが…… 遺体がお母さんかどうかを確かめ

て欲しいんだが……

 大丈夫かね?」

『おにいさん、どこにいるの?』

 才蔵の声がミカの腹から聞こえてきた。

『天井裏だ。その男の言う通りにした方がよい。

 ミカ、私がついている。気を丈夫に持つのだ!』

「ママの所へ連れていってください」

 それから、ミカは刑事に両脇を支えられるようにしてマンションの下

で待っていたパトカーに乗った。

 才蔵は、パトカーを追って朝の空を飛んだ。



 パトカーは、広島警察署についた。

 ミカは、死体安置所で横たわる女が母であるとわかると、大声で泣き

出した。

 刑事達はミカに付き添ってそこにとどまった。

 ミカの泣き声が落ちついた後、ミカを刑事達の部屋へ案内した。

ミカ


「お母さんの様子で変わったことはありませんでしたか?」

 一人の刑事が優しく聞いた。


 ==今回はここまで==



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 美奈子です。


 まさか、この第二章の事件が、ミカさんのお母さんの死だったとは!

 えっ! じゃあ、お母さんは殺された…… 殺人事件ってこと? 交

通事故や自殺の場合は事件とは言わないものね。

 ミカさん、かわいそう!これから、どうするのでしょう? 才蔵さん

がいるけど、才蔵さんは現代のことは何も知らないものね!





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才蔵(サイゾー) 第二章 事件発生 No.3
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 山崎ミカです。

 私のお母さんが亡くなりました。―― なぜ? まだわかりません。

 お父さんは二年前に亡くなり、今度はお母さんが、−− 私は

一人ぼっちになってしまいました。

 これからどうすればよいのでしょうか?




  ==では、どうぞ!==


 ミカは泣きながら小さな声で応えた。


ミカ



「体がだるいといって二日間仕事を休んでいたんです」

「それで昨日は仕事に出かけたのですね?」

「ええ」

「中学生のあなたにこれ以上聞くのは酷ですから、今日はお帰りくださ

い。

 家族はいないということでしたが、親戚の人はいますか?

 警察から連絡をしてあげますよ」

「いえ、親戚もいないんです」

「そうですか。彼女をしばらくつけておきますから、何でも相談してく

ださい」

 と言って女性の刑事を紹介した。

 その刑事は田中絵里という三十歳くらいの女性である。

「じゃあ、ミカさん。ひとまず帰りましょう」


『ミカ、拙者は警察にとどまって様子を見ることにする』


 才蔵の声がミカの腹に響いてきた。

 ミカがその部屋から出るのを見届けた一人の刑事が言った。

「自殺でしょうか?」

「店の者に様子を聞いてから結論を出すが、外傷もないことだし、自殺

だろうな」

 その時、別の刑事が入ってきた。

「鑑識の結果が出ました。

 山崎慶子の死亡推定時刻は今朝午前三時三十分頃、大量の睡眠薬を服

用したことが死亡の原因とのことです」

「ホワイトホースだったな、その店の者にあたってみるか」

 と言って二人の刑事が部屋から出た。

 才蔵はその刑事達を追うことにした。




 才蔵はビルの上を飛びながら、二人の刑事が乗った車を追っている。

 中心街を走っているので刑事達の車はスピードを出すことができな

い。才蔵は遅れることなく追跡ができた。



 最初に訪れたのは店長が住むマンションだった。

 玄関で刑事から山崎慶子が亡くなったということを聞いた店長は、刑

事達を中へ入れ、コーヒーを出した。

 才蔵は、テラスから中の声を聞いている。

「すみませんね。夜遅い仕事なので、今起きたところなんです。

 渚さんが亡くなったというのは本当ですか?」

「山崎さんの死体が太田川の河畔で今朝発見されました。

 山崎さんは店では渚と呼ばれていたんですね」

「そうです」

「睡眠薬を大量に飲んでいたようですが、心当たりはありませんか?」

「さあ、睡眠薬を彼女が飲んでいたとは知りませんでした。

 体調が悪くて二日間休んで、昨日は出てきたのですが……

 特別に変わったことはなかったと思います」

「山崎さんは、中学二年生の子と二人暮らしですが、生活に困るような

収入でしたか?」

「彼女は、二年前までは会社勤めをしていたということです。旦那さん

が亡くなって、生活費を稼ぐためにうちに来たのです。

 まあ、うちで働いている女性の中には山崎さんと同じような人も何人

かいますので、借金をせずに生活はできたと思います」

「じゃあ、仕事上で悩んでいたようなことはありませんか?」

「他のホステスとも仲が良かったので、そのようなことはないと思いま

す。

 一番仲が良かったのは、柴野雅子さんだったから、彼女に聞いてみて

ください」


 ==今回はここまで==



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 警察では、ミカさんのお母さんの死を自殺と決めているようですね。

―― でも、自殺じゃないんでしょ?

 じゃあ、だれが? 才蔵さんが何かやってくれるのかしら?






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 山崎ミカです。

 刑事さんたちは、お母さんが勤めていたホワイトホースの店長

を訪ね、お母さんと一緒に働いていた人々も訪ねました。

 でも、なぜ、亡くなったのか、原因はつかめていません。




 ==では、どうぞ!==


 刑事達はその後ホステスの家を回った。

 山崎慶子と仲がよかったという柴野雅子も高校生の息子と二人暮らし

だった。息子はすでに登校している。

「柴野さん、山崎慶子さんが亡くなったことはご存知ですか?」

「先ほどミカちゃんから電話があって、今から渚さん、いえ、山崎さん

のお宅へ行こうと思っていたんです。

 ミカちゃん一人で困っているでしょうから」

「ぜひ、そうしてください。中学生一人では心細いでしょうから。私共

も女性の刑事を一人つけているんですが。

 ところで、山崎さんは自殺をするような動機があったと思います

か?」


「慶子さんが自殺するとは思えません。だって、ミカちゃん一人

を残して死ぬなんてできませんもの」


「睡眠薬を飲んでいましたか?」

「いいえ。彼女は寝つきが良い方だと聞いていましたので、そんなこと

はないと思います」

「じゃあ、二日間、体調を崩して仕事を休んでいたようですが、その前

に何か変わったことがありましたか?」

「いえ、いつもと同じように仕事をしていました」

「お客の中で山崎さんと何かトラブルを起こすような人がいました

か?」


「いいえ。慶子さんを指名する人はいましたが、トラブルなんて

ありませんでした」


「山崎さんと特別に親しかったお客はいますか?」

「そうねえ、河田さんかしら。

 河田さんが来られたときは、テーブルに慶子さんしか呼ばなかったか

ら」

「河田さんというと……」

「県議会議員の河田省三さんですよ」

「えっ、河田議員ですか!」

 刑事達は顔を見あわせた。

「河田さんは一人で来ていたのですか?」

「一人のときもあるし、二、三人を連れてきたこともあるけど、そんな

ときでも慶子さん一人だけで良いと言って、他のホステスを断っていま

した」

「慶子さんの死と河田さんが何か関係があると思いますか?」

「さあー? 今も言ったけど、河田さんのテーブルには私達は呼ばれて

いないから分りません。たぶん関係はないと思います」

「河田さんは、何回ぐらい店に来ましたか?」

「そうねえ…… 一週間に二回ぐらいかしら」

「私達の給料では、そんなに通えませんが、週に二回とは多いですね」

「でもああいう人達は、何やかやとお酒の席を仕事に利用することもあ

るでしょうから」

 刑事達は柴野雅子の家を出て、エレベーターに向かいながら話してい

た。


「河田議員と言えば、収賄の疑いがかけられていますね」


「でもあれは、県警本部の仕事だからなあ。

 取りあえず、これから河田県議の事務所へ行ってみよう」


 ==今回はここまで==



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 河田県議会議員、何か胡散臭い名前がでてきましたね。





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