小説集
長編小説を主とした小説集……1.小説「ゴエモン」−−2.小説「才蔵」−−3.小説「拙者、才蔵」−−4.「日本軍上陸−パタニ王国」(新連載)−−4つの小説をお楽しみください。
プロフィール

石川淳也

Author:石川淳也
【石川淳也】小説「ゴエモン」著者
高校三年生。現在、大学受験勉強に悪戦苦闘中。
ゴエモンは小学2年生のときに我が家に来て、8年間一緒に暮らしました。
この物語は、ゴエモンとの思い出に少しだけ脚色したものです。

【山崎ミカ】小説「才蔵」著者
現在、高校二年生。中学生のとき才蔵と出会い、二人で生活しています。この小説はミカと才蔵の不思議な関係と二人の活躍を少しだけ脚色したものです。

【宮根真司】小説「拙者、才蔵」著者
本名、霧隠才蔵。山崎ミカとタイへ旅行した際、不思議な出来事に遭遇した。事件もあった。それらを小説にしたもの。

【田中廣一】小説「日本軍上陸」著者
拙者、才蔵に出てくる山田長政、山田オクン、脇坂、里見等と不思議な体験により出会った。その体験を小説にしたもの。


【【【[ お願い ]】】】
皆様の感想をお待ちしています。
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ゴエモン  第一章 出会い その1

小説集




 はじめまして、このブログの管理人、石川淳也です。

 現在、このブログでは次の長編小説を掲載しています。


   小説「ゴエモン」  著者:石川淳也

   小説「才蔵」   著者:山崎ミカ

   小説「拙者、才蔵」 著者:宮根真司(本名:霧隠才蔵)

   小説「日本軍上陸 − パタニ王国」 著者:田中廣一
        ==現在進行中==




 今後、小説の数は増えていきます。

  では、今のところこの4つの小説で、お楽しみ下さい。






小説「才蔵」にすすむ場合は、
下の目次をクリックしてください。
   ↓


小説「才蔵」目次


才蔵画像(大)







小説「ゴエモン」は、この下から始まります。
途中にすすむ場合は、下の目次をクリックしてください。
  ↓

小説「ゴエモン」第一巻 目次 

goemon





       小説「ゴエモン」第一巻 




 始めまして、僕、石川淳也です。

 これは僕とゴエモンという小犬の話です。

 昔、ゴエモンは泥棒でした。次にねずみになりました。そして小犬に

なって僕と出会いました。

 すみません。最初から訳のわからないことを話して……

 でも、この物語を読んでもらえればわかります。



goemon



第一章 出会い

 タッタッタッタ、タッタッタッタ。

 学校帰りの小さな男の子が体よりも大きなランドセルをユッサ、ユッ

サと左右に揺らしながら走ってくる。

 ランドセルもカチカチとせわしなく金具の音を鳴らしつづけている。

 ひたいにはかすかに光る汗が見える。

 なぜ、この子は走るのか? 大人にはわからない。いや、この子に

も、ほかの子供にもわからない。

 子供はわけもなく飛び跳ねたり、スキップをしたり、思い切り走るこ

とがある。今のこの子はそれだ。

 男の子は住宅街をまっすぐに通りぬけ、なだらかな坂道にきた。坂道

は直角に曲がる。この子の家はすぐそこ。

「淳ちゃん、お帰り、転ばないようにね、気をつけて……」

 西村のおばちゃんが、玄関先をほうきで掃いていた。

 この子の名前は石川淳也、小学二年生である。

 淳也は走るのをやめ、ひざに手を当てて前かがみの姿勢で、息も絶え

絶えに

「ハアーッ、ハアー。お、おばちゃん、たっただいま」と返事をし、そ

の場から動こうとしない。動けない。

「ジュース、飲む?

 ママは、幼稚園に美奈子ちゃんを迎えに行って留守よ」

 淳也はとなりを見た。西村家のとなりが石川淳也の家である。ママの

車がなかった。

「うん、飲む、飲む」ようやく息をととのえ、返事ができた。

 おばちゃんの家の玄関を入り、居間の横を通って台所に行く。居間に

は、高校二年生の京子お姉ちゃんの後ろ姿が見えた。

 淳也がもっと幼かった頃、この京子お姉ちゃんにだっこしてもらった

り、遊んでもらったのを覚えている。しかし、お姉ちゃんは髪を金色に

染め出した頃から、急に無口になり淳也に話しかけなくなった。

 淳也に対してだけでなく、近所の人々に対しても、つっけんどんな素

振りである。だから、少し恐いと感じることがある。

 淳也のママは京子お姉ちゃんをみて、「年頃だからねえー」と言って

いる。

「お姉ちゃん、こんにちは」

 と言って、台所のテーブルに座った。

 京子お姉ちゃんは「うん」と返事をしただけだった。

「淳ちゃん、無愛想でごめんね」

 おばちゃんが言った。

「不愛想って、何?」

「淳ちゃんが、『こんにちは』と言ったのに、京子は返事をしなかった

でしょ。あれを不愛想というの」

 おばちゃんは、オレンジジュースをグラスに注ぎながら言った。

「でも、おねえちゃんは、『うん』って、返事をしたよ」

 居間にいた京子お姉ちゃんが急に大声で笑い出し、台所へ来た。

「そうだよ、淳ちゃん、返事をしたよねー」

 京子おねえちゃんは、向かいの椅子に座って、上半身を前に押し出

し、顔をニューと出した。

 淳也は瞬間、目を大きく開き、閉じた。

 お姉ちゃんの目の周りが紫色なのだ。淳也の知っている顔ではない、

パンダに似ていた。

「ほら、淳ちゃんも、京子の顔に驚いているじゃあないの」

「おねえちゃん、どうしたの? 誰かになぐられたの」

「あっはは」と、おばちゃんが大声で笑い出した。

 京子おねえちゃんは「ふん」と言って、台所から出ていった。

 お姉ちゃんに失礼なことを言ったが、淳也にはわからない。

「京子、もっとましな化粧をしなさいよ!」

 おばちゃんは、お姉ちゃんに聞こえるように大きな声で言った。

「淳ちゃん、ごめんね、気を悪くしないでね。あの子はこの頃変なの

よ」

 淳也は両手でグラスを支え持って、一気にジュースを飲んだ。

「ブハー…… ああ。美味かった!」

 と言いながら淳也は、手の甲で口の周りを拭いた。

「おっ、おばちゃん、今のブハーは、ママには内緒にして……

 パパがビールを飲むときの真似をしていけないって言うんだけど、面

白くって、いつもやっちゃうんだ。ねっ!」

 斜めに見上げる淳也に、おばちゃんは笑顔でうなずいた。

 その時、台所の窓越しにママの車が戻ってきたのが見えた。

「あっ、ママだ!」

 淳也はおばちゃんの顔を見上げた。おばちゃんは微笑んでいた。

 おばちゃんの微笑みは、「戻っていいよ」という意味だ。

「ご馳走さま、帰るね」

「また、いらっしゃいね」

「うん」

 居間の前を通るとき、お姉ちゃんが足の爪に気味の悪い色のマニュキ

アを塗っていた。

「お姉ちゃん、さようなら」

 お姉ちゃんは、膝に顎を乗せた状態で「うん」と言った。

「マッマー」玄関を出るなり、淳也は大きな声で叫んだ。

 ママは恥ずかしそうだった。

「大きな声をだすんじゃないのよ!」

「お兄ちゃん、西村のおばちゃんちへ行ってたの? いいなあ」

 と、妹の美奈子が言った。

「ママ達がいないからジュースを貰った」

「お礼をいったでしょうね!」

「うん、言ったよ」

 ランドセルを机の上に置く。キッチンのテーブルにママがおやつのク

ッキーと牛乳を出してくれた。

「淳ちゃんはジュースを飲んだのだから、グラスに半分ね」

 と言いながらママがいつものように聞いた。

「今日は、学校で何があったの?」

「いつもと同じさ。授業があって、給食を食べて、休み時間に遊ん

で……」

「誰といつも遊んでいるの?」

「裕君とツッ君と、修君と…… えーっと、それから……」

「どんな遊びをするの?」

「ゲームの話をしたり、かけっこをしたり……」

「そう…… 美奈子ちゃんは幼稚園でどうだった?」

「由梨ちゃんがおしっこをお漏らししたの…… そしたらね。坂上先生

が、パンツの代わりを持って来て、由梨ちゃんに着替えさせて、洗って

いたよ」

「そう、先生も大変ね…… 美奈子はお漏らししたことはないでし

ょ?」

「美奈子ちゃんも、お漏らししたことあるよ」

「えっ、いつよ? そんなこと聞いてないわ、なぜ、黙っていたの

よ! あああっ……」

 ママはひたいに手を当てて声を漏らした。

「明日、幼稚園の先生に謝らなければならないわね……

 美奈子ちゃんも淳ちゃんも、これからは黙っていないで言うのよ」



 午後六時半、パパの帰宅。

 玄関で靴を脱いでいるそばから、美奈子がパパの背に飛びつく。パパ

は背に美佐子をくっつけたまま立ち上がり、ママのところへ行き「ただ

いまー」という。

 いつもの光景である。

 淳也も美奈子のように飛びつきたいが、僕はお兄ちゃんだ。美奈子の

ようにしたら恥ずかしい、という気持が芽生えてきて、この頃できなく

なった。

 パパの仕事は大学の助教授だと聞いている。助教授という仕事がどん

なものか知らないが、ほとんど毎日午後六時半に帰って来る。

 パパは、仕事よりも家庭を大切にしたいと言っていた。



 パパが帰ってくると、時計で測ったように家族は行動する。

 先ず、最初に風呂。パパ、淳也、美佐子の三人で入る。

 淳也と美奈子が浴槽に入る。パパは洗い場で体に勢い良く石鹸をつけ

ながら、今日学校であったことを淳也に聞いてくる。ママに話したのと

同じことを話さなければならない。しかし、この頃は、美奈子が淳也に

代わって、淳也の出来事を話すようになった。

「いつもと同じことよ、パパ。お兄ちゃんは、学校で授業があって、給

食を食べて、休み時間に遊んで……。

 遊ぶ相手は、裕君でしょ、ツッ君でしょ、修君なの」

 淳也が話したのと同じことを喋った。

 美奈子は続いて、ママに話した幼稚園での出来事と同じことを話し

た。

 パパはママと違って、美奈子のおもらしを叱らずに笑っていた。

 一通りの報告が終わると、パパは淳也を浴槽から出して、淳也の体を

洗う。次いで美奈子の体を洗う。淳也は慣れたけど、美奈子はパパが背

中を強くゴシゴシやるので、「痛い痛い」と言っている。

 その後、三人で浴槽に入る。美奈子は百まで数えたら風呂から出るこ

とができる。淳也は九九を間違えずに言い終えて上がる。

 美奈子と淳也が風呂から出るとき、パパが叫ぶ。

「おーい、ママー。美奈子が出るぞー」

「おーい、ママ。次は淳也だ」

 ママがバスタオルを広げてまっている。

 パパとママの連携プレイ。

 裸の美奈子がその中に駆け込むと、バスタオルで包んで水気を優しく

取ってくれる。

 淳也も同じようにバスタオルに駆け込むが、美奈子の体を拭いたあと

だから、気味が悪い。

 ああーっ、あの乾燥したバスタオルに飛び込みたい。

 そのためには、九九を早く言い終わらなければならない。

 風呂の後、七時十分頃から夕食である。淳也達が食べ始めるとパパ

は、ママが注いでくれたビールを飲む。

「ブファー。ああ、美味い!」

 と声を出す。そして、決まったように

「ママが注いでくれたビールは美味い!」と言う。

 毎日同じ言葉を聞いている淳也は、ビールというものは注ぎ方次第で

美味くも、まずくもなるものだと思っている。

 ママの料理に対して、美味いとかまずいとか言うパパの言葉を聞いた

ことがない。たぶん、ママの料理は美味くないのだろう。

 食事が終わるとママが風呂に入り、パパと淳也と美奈子で後片付けを

する。

 食事の後片付けは、パパとママが結婚をした時、ママがつけた条件と

聞いた。でも、パパは後片付けが楽しそうだ。

「淳也と美奈子が手伝ってくれるから、楽しい」

 その後、居間でテレビを見たり、話をしたり、適当に時間を過ごす。

 午後九時になると、淳也と美奈子は寝るようにせかされる。

 寝室には、奥からパパ、美奈子、淳也、ママと大小異なる布団が、四

つ並ぶ。

 いわゆる川の字で寝るのだけど、三人ではなく、四人だから川とはい

えない。

 美奈子のそばでパパも横になり、昔話を始める。

「おじいさんが山へ芝刈りに行くと、川上から大きな桃がドンブラコ、

ドンブラコと流れてきたんだ」

 パパは、抑揚をつけて、面白く可笑しく話し始めた。

 ドンブラコ、ドンブラコというところで美奈子は、キャッキャッと嬉

しがっていたが、ころ頃は違う。

「パパ、昨日はドンブリコ、ドンブリコで、その前はドンブラコッコ、

ドンブラコッコだったよ。今日はどうしてドンブラコ、ドンブラコな

の?」

 と美奈子が聞いた。

 淳也もパパの言葉の違いには気づいていた。

 ドンブリコとドンブラコッコ、ドンブラコの違いは、川を流れながら

桃が浮いたり沈んだりする様子が少し違うように思う。

 淳也はパパの話を聞きながら頭の中にその物語を想い描くのが好きだ

った。だから、毎日違う桃の流れ方を想像して楽しんでいた。

 淳也は想像力が人一倍強い。

 だから、想い描いたものと現実が入れ違って、自分でも分らなくなる

ことがある。

「淳也は文系で、美奈子は理数系だ」

 とパパとママが話していた。

 桃太郎が鬼が島に渡る前に、淳也は寝てしまった。





 ==今日はここまです。==


 桃太郎の物語って、何がでてきます? 猿と雉(きじ)と犬ですね。

 そう、犬が出てきます。小犬のゴエモンに近づいてきました。

 明日の配信でゴエモンが出てくるかもしれません。

 楽しみに待っていてください。




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ゴエモン 第一章 その2
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 ゴエモン 第一章 その2

 

 石川淳也です。

 
 昨日は主人公のゴエモンが出ていませんでした……  と、いうより

未だ産まれていないのです。

 主人公のいない話は面白くなかったかも知れません。

 そこで、今日は主人公の登場までを一気に書き上げました。

 そのために、昨日に続いて長い文章になっています。

 あきずに最後まで読んでください。


goemon




 淳也は夢を見た。

 西村のおばちゃんが『元気でね。頑張るのよー』と叫んでいる。おば

ちゃんの背におんぶされた美奈子が『お兄ちゃーん』と呼んでいる。

 ボートの上で桃太郎がうなずいた。桃太郎の顔は淳也である。

 猿がエンジンをかけた。スクリューが勢いよく回り出し、ボートは動

き始めた。

 キジが『俺について来い』と言いながら、先に飛んで行った。

 あれ? 家来の犬がいない。淳也は夢の中で犬を探した。

 いた、いた。

 桃太郎である淳也の腕の中で、鼻黒の小さな小犬が抱かれている。



 鬼が島が見えてきた。三角形の山がある。

 ザーッ、ボートが砂浜に乗り上げた。

 ボートから浜に飛び降りた桃太郎は、爪にマニュキアをした二本の足

を見た。顔をあげると、目の周りに黒い輪の鬼…… そう、それは京子お

姉ちゃんだった。

 お姉ちゃんの頭には二本の角がついている。

 その後ろでママが『淳也、助けてー』と叫んでいる。

『ママー、今助けるからねーっ』 



 どうやら、これはお姉ちゃん鬼にさらわれたママを助けるという、夢

のようだ。と、思っていると夢の場面が変わった。




 そこは小学校の校門だった。

 髪の全てを逆立てたような頭をしたパパがいた。

 パパは赤や青、金、黄色など鮮やかな色で描かれた模様の着物を着て

いた。

 パパはふんぞり返り、偉そうにしている。

『パパ、何しているの?』

『淳也、パパではない。

 わしはお前の先祖だ。石川五右衛門という。

 お前は、わしの子供の子供、そのまた子供の子供、さらにそのまた子

供の子供と幾つも子供が続いた後の子供だ。わかるか?』

『??』

『わからずともよい。お前は今からこの箱の中のわしの生まれ変わりを

持って帰って、大切に育てるのだ。良いな!』

 強い口調で言った石川五右衛門は、足元を指差した。そこにはダンボ

ール箱。

 淳也は、その箱の中のものが何かを聞きたいと思った。

 しかし、声を出すことができなかった。

「それは何?」という言葉を出そうと淳也は何度も試みた。ついに、

「なっにーーっ! そっれっはっー?」 


と大きな声を出した。




 大きな声を出した勢いで、淳也の目が覚めた。

 隣を見ると、オレンジ色の薄い光の中で美佐子がパパの枕に足を乗せ

て寝ていた。

 パパはどこ? ママの方に向き直すとママとパパが並んで寝てる。



 淳也はそっと寝室を出た。居間を通るとき見た時計は午前四時。

 スニーカーを履き、外に出た。街灯が点いており真っ暗というわけで

はない。

 走って坂道を下った。誰もいないところを走るのは怖い。でも、学校

へ行かなければならないという気持ちが怖さよりも強かった。

 薄暗くて誰もいない商店街を走り抜け、校門の見える場所にきた。

 夢で見た通りのダンボール箱がある。

 しかし、パパに似た石川五右衛門はいない。

 恐る恐る近づくと、ゴソゴソッ、ゴソゴソッとダンボール箱が動いて

いる。

 石川五右衛門の赤ちゃん? 蛇? ウサギ? カブト虫? 少し怖い

気がする。

 そのとき、「クーン、クーン」と小さく泣く声が聞こえた。

 思い切って、ぱっと箱を開いた。

 箱の底に小犬がいた。

 ふらふらとした足取りで左右に揺れ、小刻みに震えてもいる。体全体

は柔らかい茶色の毛で覆われているが、鼻の周りだけが黒く、目を閉じ

ている。

 夢の中で桃太郎が抱いていた犬だった。

 裏返してみると、小さなおチンチンが二つついている。

 変な犬だなと思った。

「お前、ゴエモンか?」

「キャン」と泣いた。

「そうだな、石川五右衛門の生まれ代わりだから、お前の名前もゴエモ

ンだ」

 淳也はパジャマのボタンを外して、そっとゴエモンを中に包み込ん

だ。ゴエモンはパジャマの中で体を丸め、「クーンクーン」と泣いてい

る。

 ゴエモンをかばうように、ゆっくりとした足取りで歩き始めたが、早

く家に戻りたいという気持ちから急ぎ足になった。


「はっはは、ゴエモン、ゴエモン。

僕のゴエモン、

 ゴーエモンモンモン」



 途中から歌いながら、スキップして商店街のアーケードを通り抜け

た。

 家が見えてきた。坂道を登るときに、淳也に疲れと眠気が襲ってき

た。

 玄関に入ってからのことを、淳也は覚えていない。



「淳也、淳也、起きなさい」

 ママの声がする。淳也はママに揺り動かされていた。

「うーん、気持ち良く眠っているのに……

 そうだ! ゴエモン!」

 淳也の意識ははっきりと覚めた。

「駄目じゃあないの、こんな所で寝てちゃあ。風邪でも引いたらどうす

るの!」

 淳也は居間のソファーで寝ていたのだ。

「ママ、ゴエモンは?」

「ゴエモン? 何、それ」

「ゴエモンだよ、ゴ、エ、モーン!」

 淳也は辺りをキョロキョロと見渡した。が、ゴエモンの姿が見えな

い。

「夢だったのかなあー?」

「寝ぼけているのね」ママは笑い出した。

 しかし、その笑い声は直ぐに消えた。

 ママがビクッと固まった。ママはそおーっと、足元を見た。


  「キッ、キャ〜〜〜〜ッ」 


 ママの足をペロペロとなめている小犬。

「あっ、ゴエモン! 夢じゃあなかったんだ」

 ゴエモンをママに紹介しよう−− 両手で持ったゴエモンをママの顔

の前に突き出した。

「ママ、これがゴエモンだよ」

 ゴエモンは、ママの鼻をペロリとなめた。


 
「パパア〜〜! 来て〜〜!


 来て〜〜!」
 




 眠気まなこのパパが居間に入って来た。淳也はゴエモンを抱いてい

る。

「淳也、どうしたんだ? その犬は」

「パパ、ゴエモンだよ。

 僕はゴエモンの子供の子供で、またその子供の子供で、幾つもの子供

の子供なんだ」

 パパとママは顔を見あわせた。

「お前はパパとママの子なんだよ。この小犬の子供じゃあないよ」

「でも、僕は……」

 説明の方法が分らない淳也は、言葉を続けることができない。

「ねえ、パパ、ゴエモンを家で飼ってもいいでしょ?」

 パパはママの顔を見た。ママは顔を横に振っている。

「その前にもっとくわしく話してくれないか。

 ゴエモンというのは淳也がつけた名前か?」

「ううん」淳也は首を横に振った。

「ゴエモンが、名前を言ったんだ」

「いつ? どこで?」

「夢の中で……」

「どんな夢か話してごらん」

 淳也は、桃太郎と石川五右衛門の夢の話をした。

 桃太郎の夢の話のとき、「あっ、ははー」とパパは笑った。

「何で私が鬼にさらわれるのよ」とママはふくれた。

 石川五右衛門の話しのときには、黙って聞いていた。

「それで、学校へいったら、ダンボールの箱の中にこの小犬がいたの

か?」

「うん、そうだよ。だから、このゴエモンは僕らと生活するんだ」

「気味が悪いわねー」

 ママの声が上から聞こえた。



「あっ、わんちゃんだ」

 美奈子が寝室から出てくるなり、叫んだ。

「ゴエモンだよ。これから一緒に生活するんだ!」

「わあー、可愛い。嬉しいな、嬉しいなー」

 パパとママは、ゴエモンを飼ってはいけないと言えなくなった。ママ

が家の中で飼うことだけは嫌だと言ったので、庭で飼うことになった。

「パパ、ゴエモンはおチンチンが二つあるよ。変だね」

 パパが、ゴエモンを持った。

「これは、へその緒だよ。

 生まれたばかりなんだろう。目も開いていないし……

 動物病院へ連れて行って、へその緒をきちんとしてもらおう。ばい菌

が入ったら困るしな」



 今日は土曜日、パパの仕事はない。

 朝食のとき、ママがパパに聞いた。

「ねえ、本当に石川五右衛門の子孫なの?

 石川って名字は全国にいくらでもあるけど、まさか子孫ではないでし

ょうね。結婚するとき、そんなこと言わなかったじゃない」

「さあ、聞いたことないなあー」

 淳也がパパとママの会話に入った。

「先祖って、子孫の反対の言葉?」

「そうだよ」

「石川五右衛門はどんな人? 偉い人?」

「……」

 パパとママは話してくれなかった。

「淳ちゃん、石川五右衛門の子孫だなんて言っちゃあ駄目よ。

 いい! わかった! ぜっ、ぜーったいに言っちゃあ駄目よ!」

 淳也は、石川五右衛門と言う人の名前を言うことは、ママが困るので

あろうと思った。ママに嫌われたくない淳也は、「うん、言わない」と

言いながらうなずいた。



 食事の後が忙しかった。

 先ず、電話帳で土曜日でも開いている動物病院を調べた。そして佐藤

動物病院を見つけた。

 その佐藤病院でへその緒の手当てをしてもらった。

 佐藤先生は、ゴエモンは生後四日から五日が経過しているようだか

ら、二、三日もすれば目が開くだろうと言い、小犬の育て方のアドバイ

スをしてくれた。

 ママは、美奈子が使った哺乳ビンにミルクを入れてくれた。淳也がゴ

エモンの口に哺乳ビンをあてると、勢いよくミルクを吸い始めた。お腹

が空いていたのであろう。あっという間に、哺乳ビンが空になった。

「ゴエモンはお兄ちゃんの子供だね。でも、美奈子ちゃんにも抱かせ

て!」

 美奈子は淳也からゴエモンを奪おうとした。

「違うよ、僕がゴエモンの子供なんだよ!

 美奈子にも抱かせてやるから、乱暴するなよ」

「ゴエモンちゃん、ゴエモンちゃん」

 と美奈子は人形を抱くようにゴエモンを抱いた。

 パパは庭に小さな犬小屋を作った。その後、シャンプーを使ってゴエ

モンをぬるい湯で洗ってくれた。

 ゴエモンが生活をする一通りの準備が終わった。

 ゴエモンは、ミルクを飲むか寝るかのどちらかである。



 翌日の日曜日、淳也と美奈子は朝から晩までゴエモンと一緒だった。



 月曜日の午後、淳也はランドセルを横に揺らし、金具をカチカチ、カ

チカチカチと鳴らしながら坂道を駆け上がった。

 西村のおばちゃんが玄関を掃いていた。

「淳ちゃん、お帰り」

 淳也は、止まらずに「ただいまー」と言いながら、おばちゃんの家の

前を通り過ぎ、

「ゴーッ エーッ モ 〜〜〜 ン!」

 大声で叫んだ。

 西村のおばちゃんは、どうしたのかと思い、そっと淳也の後をついて

来た。

 淳也は玄関から上がらず、庭に回った。ゴエモンがいる。

 淳也に抱き上げられたゴエモンは淳也の顔をぺろぺろと舐めた。

 うん? ゴエモンの目が開いている。淳也はゴエモンを両手で差し上

げ、左右に動かした。

 ゴエモンの体が左右に動かされても、その目は淳也の方を見続けてい

る。ゴエモンは目が見えるのだ。

「よかったな、ゴエモン、目が見えるようになったか。

 僕が淳也だよ。お前を連れてきたのは僕だよ」

「あら、可愛いのね」

 後ろから、西村のおばちゃんの声がした。

「あっ、おばちゃん。これゴエモンだよ」

「ゴエモンって、この犬の名前?」

「そうだよ、僕のゴエモンだよ」

「ねえ、淳ちゃん、私にも抱かせてよ、ねっ!」

「おばちゃん、犬が好きなの?」

「ええ、好きよ、子供の頃飼っていたの。ゴエモン、ゴエモン」

と、おばちゃんはゴエモンをあやしながら抱き上げ、頬ずりをした。

 その時、ママが幼稚園から美奈子を連れて戻ってきた。

「お帰りなさい」おばちゃんが言った。

「千代子さん、可愛いわねー。ゴエモン」

 千代子とは、ママの名前である。

「ええ、まあ」

「おばちゃん、お兄ちゃんはゴエモンの子孫なのよ。お兄ちゃんはその

ことを人に言ってはいけないの。ねえー、ママ」

「美奈子ちゃん、変なことを言うんじゃあありません」

 と、ママは美奈子をたしなめた。

「淳ちゃんが、ゴエモンの子孫? どういうこと」

 おばちゃんが聞いた。美奈子が何か言いかけたが、

「いえね、淳也が変なことを言い出すもんだから、ホッホホ」

 と、ママは、美奈子に言わせなかった。

 それから、淳也と美奈子はゴエモンを玩具のようにして遊んでいた。

 六時半にパパが帰ってきても美奈子はパパに飛びつかず、ゴエモンの

そばにいた。風呂に入って、夕食をして、子供達は午後九時に寝るとい

う時計で測ったような石川家のスケジュールは、ゴエモンによって狂っ

てしまった。

 淳也と美奈子がゴエモンから離れないのである。パパまでもがゴエモ

ンのそばにいるようになった。




==今日は、ここまで==



 石川淳也です。


 これからゴエモンの活躍が始まります。

 えっ? 産まれたばかりの小犬に何ができるか? ですって!

 そんな疑問を持っている人…… あなたです。

 明日の配信を楽しみに……



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ゴエモン 第二章 誘拐 その1
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こんにちは、石川淳也です。
 
 昨日まではゴエモンが出てくるまでの第一章でした。

 今日から第二章です。物語は神崎好美ちゃんという一歳年上の女の子

に関係します。
 

goemon




第二章 誘拐



 今日も淳也は学校から家へ向かって走っている。ランドセルの金具が

カチカチカチと鳴り続けているのも同じだ。

 しかし、違うものがある。それは、走る理由。

 前は訳もなく走っていたが、今はゴエモンに早く会いたい気持ちか

ら、走っている。当然、走る速さも以前より速い。

 ゴエモーンと呼ぶ僕の声を聞いて、しっぽを振って嬉しがるだろう

な、などと思いながら走っている。顔が笑っている。

 西村のおばちゃんの家の前にきた。

「ゴッエッモー……」

 淳也の家の前辺りから見知らぬ大人達が道路上にいた。みな大きな

体、太っているというのではなくたくましい体だ。

 淳也がゴエモンの名前を呼ぼうとして最初に出した声で、大人達が淳

也の方を一斉に見た。叱られるのではないかと思った。だから、途中で

声が切れてしまった。

 一人の男が近づいてくる。

「坊や、この辺りの子?」

 男は腰を低くせず、首を直角に下に向けて小さな淳也に言った。

「うっ…… うん、この家だよ」と、淳也は恐る恐る男を見上げながら家

を指差した。

「坊やは、神崎好美ちゃんを知っているかい?」

「うん、知ってるよ。でも話したことはないよ」

 この大人は子供を馬鹿にしていると淳也は思った。子供は大人の質問

に応えるものと、一方的に思っているようだ。学校の先生だったら、パ

パやママだったら、淳也の背丈にあわせて身体を低くして優しく聞いて

くれる。

 だから返事もつっけんどんになりそうだったが、こわそうなので聞か

れたことには応えた。

「そうか、じゃあ、好美ちゃんはこの辺りの子供と遊ぶことはなかった

のかい?」

「うん、好美ちゃんは僕らとは違う学校だから……」

「そうか」

 男はくるりと向きを変えて戻っていった。

(なんだ! こいつ)と思ったが口に出せない。

「淳ちゃん、淳ちゃん」

 西村のおばちゃんが玄関のドアを少し開いて、顔の半分と腕を出して

呼んでいる。

「おばちゃん」

 淳也は、おばちゃんの家に駆け上がった。

「おばちゃん、あの人達は何?」

 不快そうに聞いた。

「さあねー、わからないのよ。今の人に何を聞かれたの?」

「神崎さんちの好美ちゃんを知ってるかって、聞かれた」

「そう、やはり神崎さんのお宅に関係しているのね……」

 神崎さんちは、ゆるやかな坂道を淳也の家の前から二軒登ったところ

にあり、石川家の五倍以上の敷地で、高い塀に囲まれて立っている。

「好美ちゃんがどうかしたの」

「さあ、私もよくわからないのよ」

 神崎さんの家の様子が変だと思っているが、詳しいことは知らないよ

うだ。

「ママは美奈子ちゃんを迎えに行っているから、戻ってくるまでここに

いなさい。ねっ」

「うん、ここにいる。あっ、そうだ。ゴエモンを連れてきてもいい?」

 おばちゃんが「ええ、いいわよ」と返事をしようとしたとき、窓の外

にママの車が見えた。

「あっ、ママだ、おばちゃん、僕帰るね。ゴエモンが心配だから」

 淳也がおばちゃんの家を出て前の坂道に目をやると、大人達は神崎さ

んちの家を見ながら何か言いあっていた。

 ママもその大人達をちらっと見て「さあ、早く家にはいりましょう」

と、言った。

「ママ、僕は庭でゴエモンと遊んでいるよ」

 淳也につられて美奈子も「美奈子ちゃんもゴエモンちゃんとお庭で

遊ぶ」と、言った。

「今日は、庭で遊ぶのはやめなさい」

 大人達のいる道から、庭が丸見えだ。ママは大人達のことが気になっ

て、子供を大人達の目にふれさせたくないらしい。淳也には何となく、

そう思った。

「じゃあ、ゴエモンを家に入れてもいい?」

「しかたないわね」




 淳也はゴエモンを家に入れて、美奈子と一緒に遊んでいた。

 西村のおばちゃんが「千代子さん、ちょっといい?」といいながら上

がってきた。

 おばちゃんはママと神崎さんちのことについて話し始めた。

「そうですか、好美ちゃんは淳也より一つ年上と聞いていますが……

何があったのでしょうね」

 というママの声が聞こえた。

 淳也と美奈子は代わりばんこにゴエモンを抱き、抱くことにあきたら

腹ばいにして、さすったり、くすぐったりしていた。

 美奈子にとってゴエモンは動くぬいぐるみ人形である。人形は何をし

ても応えてくれないが、ゴエモンは血が流れている生き物である。触る

と温かい。

 おまけに、しっぽを振ったり、「キャイン」とか「クーン」とか返事

をしてくれる。時には面倒になって逃げようともする。

 美奈子には人形よりもゴエモンの方が可愛くなった。




  ==今日はここまで==


 石川純也です。

 神埼好美ちゃんはどうしたのでしょうね。

 好美ちゃんちの近所だけど、僕は今まで未だ話もしたことがないん

だ。

 制服姿の好美ちゃんがお母さんの運転で学校へ通う姿を何度もみただ

けなんだ。

 僕が通っている小学校は公立の学校で制服はないが、好美ちゃんは私

立の小学校で制服を着ている。

 僕も制服を着てみたいなと思ったことがある。


 明日は神埼好美ちゃんに関係する物語に入っていきます。

 お楽しみに。
 


 神崎好美ちゃんが気になった人は…… そう、下のバーナーをクリッ

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ゴエモン 第二章 誘拐 その2
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こんにちは 石川淳也です。

 
 今日の話でサヤカちゃんという女の子がでてきます。

 と言っても、夢の中の話ですけどね。

 サヤカちゃんって、実は僕の初恋の人だったんです。

 だった? 実は、この話は僕が小学二年生のときのもので、あれから

十年が経ち、今の僕は高校生です。

 だって、そうでしょ。小学二年生がこんな文章書けます?

 これは、僕の思い出話なんです。






 その夜、淳也は夢を見た。

 淳也が棒を持って、校庭に大きな飛行機の絵を描いている。

『淳ちゃん、上手ね。でもこんなに大きな絵を描いて、先生に叱られな

い?』

 大好きなサヤカちゃんが、ふいに後ろから声をかけた。

 遠くから、

『コラーッ、校庭に絵を描くなーっ』

 校長先生が怒鳴りながらこちらに駆けてくる姿が見えた。

『サヤカちゃん、逃げよう!』

 淳也はサヤカちゃんの腕をとって、走った。

 追って来る校長先生が象に変わった。

 サヤカちゃんが転んだ。

『大丈夫? 早く逃げようよ!』

 と、淳也はあせりながら言った。

 その時、なぜか象が走ってくる。

 追いついてきた象が長い鼻を伸ばして、サヤカちゃんの体を持ち上げ

た。

『コラッ、やめろ』と、淳也は言いながら象に飛び乗った。

 象の頭に上った淳也は、その象をボカボカと殴った。

 殴られた象はサヤカちゃんを校庭に置いて、逃げていった。

『淳ちゃん、ありがとう。強いのね』

『えへへへ』

 淳也は、照れくさそうに笑った。




 夢の場面が変わった。



 淳也のそばにゴエモンがいる。淳也とゴエモンは倉庫のような建物の

中を遠くから眺めていた。不思議なことに、建物の壁の外から中が見え

る。

 建物は二階建てで、二階の小さな部屋で一人の少女が寝ていた。その

隣の部屋に四人の恐そうな男がいた。

 少女は、神崎好美ちゃんだった。

 好美ちゃんは、淳也より一つ年上である。私立の幼稚園に通い、今は

私立の小学校に通っている。淳也は公立の小学校に通っているから話し

たことはない。だが、淳也の家の前を大きな黒い車で学校へ通う好美ち

ゃんを見ており、名前と顔は知っている。

 淳也とゴエモンは、その好美ちゃんのいる部屋に入った。

『好美ちゃん、好美ちゃん』と淳也が呼んだ。

『誰?』

『好美ちゃんちの二軒下の石川淳也だよ。始めまして……。

 どうしたの? こんなところで』

『淳也君? 私ね、誘拐されたの』

『誘拐? 誘拐って何?』

『悪い人達にさらわれたの』

『逃げればいいじゃないか!』

『見張られているから逃げることができないの。それに、この部屋には

鍵がかかっているし…… 助けて、お願い!』

 その時、隣の部屋で

『島崎さん、変なことを言っていますぜ。誰かと話しているんでしょう

か?』

 と、一人の男が言った。

 それに応えた島崎という男は、紺色のスーツに茶色のネクタイをして

いる。

『誰かいるのかー!』

 島崎は大声で言い、顔にマスクをして好美ちゃんの部屋に入った。

『お嬢さん、誰と話しているんだ…… なんだ寝言か!』

 島崎は寝ている好美ちゃんに話しかけるように、独りごとを言った。

『逃げようとしても無駄だ。身の代金を貰うまでは返すことはできない

よ。諦めることだな』



 夢の場面が変わった。学校の教員室だ。


 淳也は、小さなゴエモンにまたがって教員室の中を飛んでいる。教員

室の天井近くをゆっくりと大きく二回回って、担任の吉田先生の机の上

に降りた。

 机の上には、テスト用紙があった。漢字の書き取りテストだ。

 淳也はテスト用紙を上から見た。


 つぎの漢字にふりがなをつけなさい。

 1.海 2.山 3.川 4.空 5.鳥 6.魚……


 二十問であった。

 淳也は、わかる漢字とわからない漢字に分けた。わからない漢字が

十二もある。




 淳也の目が覚めた。ふと、見ると目覚まし時計の針が午前四時を指し

ている。

「あっ、そうだ。今日、漢字のテストがあるんだった!」

 直ぐ子供部屋に行き、夢の中でわからなかった漢字を調べた。



 その日のテストは不思議にも夢で見たのと同じだった。

 問題がわかっているのだから、すらすらと書き込める。

「せんせー。できたよー」

 教室の前に行って先生に出すと、先生は赤鉛筆で○を一つ一つにつけ

ながら、

「あららららー、淳也君、すごーい。満点よ」








 ==今日はここまで==



 石川淳也です。



 第一章から夢が何度もでてきます。そうなんです。この話は夢がなけ

れば成り立たないのです。

 神崎好美ちゃんが誘拐されていた夢をみた。これがこれからのストー

リーの元になります。

 夢の中のテストの問題、夢の中で好美ちゃんと会ったこと、これらは

ゴエモンの力によるものなんです。

 何言ってんだ。訳のわからないことを…… と思っているあなた。

 これから少しずつわかってきます。

 今後も何度も夢の場面がでてきます。




 では、では、次回をお楽しみに!


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ゴエモン 第二章 誘拐 その3(通算5回目)
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  こんちわ〜っ  石川淳也です。



 前回の話は、僕の漢字テストを吉田先生が採点をし、満点だと言った

ところで終わりました。

 今日は、その続きです。



        ======



 淳也は、今まで漢字テストで満点をとったことがない。

「偉い、偉い」

 先生は淳也の頭をなぜてくれた。

 淳也は、吉田先生が好きだ。だから誉めらると嬉しい。

 が、淳也は何か悪いことをしたように思い、思い切って言った。

「先生、ごめんなさい。僕、テストの問題を知っていたんだ。だか

ら……」


「知っていたって? いつ、知ったの? この問題を作ったのは、

昨日淳也君達が帰った後よ」


「夜見たの」


「夜って、まさか。学校に来て問題を見たの? でも、学校には

入ることができないのよ」


「夢の中で問題を見たんだ」




「夢〜〜っ!」




 吉田先生はすっとんきょうな声を出した。

「そう、淳也君は夢の中で問題を知ったの」と、先生は笑いながら言っ

た。




 そのとき、「先生、できたー」と修君が言った。

「じゃあ、修君見てあげましょう。淳也君はよくできました。席に戻っ

ていいわよ」

 夢の話しを信じていないようだ。




 テストの次、給食の時間、黒板を背にして食事をしている吉田先生の

所へ淳也が行った。

「せんせー、あのー……」

「どうしたの?」

 吉田先生は、パンをモグモグとほお張りながら、牛乳を口へもってい

こうとしていた。

「あのー、先生は石川五右衛門って人のことを知ってる?」




「ウーッ! グホン、ゴホン」


 先生はむせた。牛乳の白い液体とつぶれたパンが口から飛び散り、先

生のスカートと机の上におちた。

 先生はスカートに牛乳の染みがつくと思ったのだろう。

 手で乳牛をスカートから振り落としながら、立ち上がった。

 と、そのはずみで―― 机が揺れた。




「ガッシャーン」




 机の上の牛乳ビン、ハンバーグ、パン。食器ごと床に落ちてしまっ

た。




「わーっ。先生、


 行儀が悪いなー」


「行儀が悪い、行儀が悪い」



 子供達の大合唱。

 吉田先生は若い女性。顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに床を雑きん

でふき始めた。

 そばに立っている淳也は…… みんな僕が悪いのだ。あんなことを聞

かなければ先生は給食をこぼさなかったのだからと思い、悲しくなっ

た。




「わーん、わーん」



 淳也の大きな泣き声泣に驚いた子供達は、合唱をやめた。


「先生、ごめんなさい、ごめんなさい」


 淳也が謝ると、ツッ君が言った。


「なんだ、淳ちゃんが先生の給食をこぼしたのか。淳ちゃん、

だめじゃあないか」


 床をふき終えた先生は、

「そうじゃあないの、淳也君がこぼしたのじゃあないのよ」と子供達に

言いながら、淳也にも「私がこぼしたのよ。淳也君は悪くないのよ」と

言った。

「シク、シク」と泣いている淳也に

「さあ、もう泣かないで」と言いながらハンカチで涙をふいてくれた。

 それはスカートの牛乳をふいたハンカチだった。




 その給食後の休み時間、修君とふざけあっていた淳也のところへ吉田

先生が来た。

「淳也君、なぜ、石川五右衛門のことを聞きたいの?」

 ママから石川五右衛門の子孫だと言ってはいけないと言われている。

「あのね、僕と同じ名前でしょ。だから、どんな人かなって思っ

て……」

「そうね、同じ名字ね。詳しくは知らないけど知っている範囲でい

い?」

「うん、いいよ」

「あのね、石川五右衛門という人は、戦国時代の盗賊だそうよ」

「盗賊って、何?」

「大泥棒ということ」

「大泥棒って? どんな泥棒?」

「うーん、人の財布からお金を盗んだりすると泥棒でしょ。それに大が

つくの、例えばねー。

 会社に忍び込んで、会社のお金を全部盗んだりするのは、人の財布か

らお金を盗むのと比べれば、もっとたくさんのお金を盗むことでしょ。

そういう大泥棒なの」

「そう……」

 淳也の声が沈んで聞こえた吉田先生は、

「でもね、石川五右衛門は、盗んだお金を困っている人達にあげたとい

う話もあるそうよ。

 本当のところは分らないの。だって、石川五右衛門って、本当にいた

人かどうか分っていないのよ」

 吉田先生はさらに、石川五右衛門は釜ゆでの刑で殺されたと言おうと

したが、それは止めた。





 ==今回はここまで==

 淳也です。

 なかなかゴエモンの活躍の場面にならなくて、すみません。

 早くその場面にしたいと思うのですが、そこに行くまでのプロセスも

大切ですからね。

 では、次回をお楽しみに。


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ゴエモン 第二章 誘拐 その4(通算6回目)
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 石川淳也です。


 もうご存知だと思いますが、この物語で夢の中の会話は『 』にして

います。

 では、今回もこの物語を楽しんでください。

  ================



 その夜、夢の中で淳也はゴエモンと話した。

『ゴエモン、本当に泥棒だったの?』

 小犬のゴエモンの体からもうもうと煙が立ち昇り、髪の毛を逆立てた

石川五右衛門に変った。

『そうだ、泥棒だった』

『なんだ、がっかりだな』

『普通の泥棒は悪い事だ。だがわしの場合は人々のためにやったこと

だ。

 悪い方法で沢山の金を手にした奴から、そのお金を盗んで貧しい人達

に配った』

『どんな人から盗んだの?』

『豊臣秀吉という男を知っているか?』

『聞いたことはあるけど、よく知らない』

『あいつは国を取った奴だ。あいつの為に多くの人が泣かされた。殺さ

れた者も数えることができないほど多くいる。

 そういう奴の大金を盗んで、貧しい人々に分けたのだ。

 だから、泥棒とは言わずに、わしのことを義賊と言って欲しい』

 淳也は、人に言ってはいけないと言ったママの気持ちがわかった。

 淳也は義賊とは何かを知らないが、石川五右衛門はどちらかというと

悪い人間だと直感で思った。

 同時に、悪い人間ではあるが格好よく思え、先祖にこのような男がい

たことを誇りにも感じている。



 次の日、給食の時間。

 校内放送で先生は教員室へ戻るようにという指示があり、吉田先生は

教員室へ向かった。

 淳也達が給食を食べ終えた頃に先生が教室へ戻ってきた。

 給食の後片づけを終えて、遊びに行こうとしていると先生が

「みんな、席について聞いてください。

 実は、この学校の子供ではないけど、同じ学区の子供が誘拐された

の。

 それで、君たちが、いつものようにばらばらで家に帰ると、誘拐され

るかも知れないでしょ。

 だから、今日は午後の授業を中止して、全校児童一緒に帰ってもらい

ます」

 その時、修君が手をあげた。

「せんせー、誘拐って何?」

「修君、さらわれることだよ」と、淳也が言った。

 淳也は夢の中で神崎好美ちゃんから、誘拐という言葉の意味を聞いて

知っている。

「そう、石川君が言った通りです。子供がさらわれたの。

 だから、君達もさらわれるかも知れないから、みんなで一緒に注意し

て帰って欲しいの。

 家の人達で学校へ来ることのできる人には来てもらうようにしていま

す。その大人の人達と一緒に注意して帰ってね」

 淳也が手をあげた。

「せんせー!」

「何? 淳也君」

「誘拐されたのは、神崎さんの好美ちゃん?」

「えっ!?」

 先生は驚いた。淳也が誘拐事件のことを知っていたからである。

 新聞やテレビで報道されていない。先生も、この事件のことを五分前

に教員室で聞いたばかり

「あっ、そうか! 淳也君は神崎さんのご近所ね。

 そうよ。学校は違うけど、神崎さんのお嬢さんらしいの。

 淳也君、気をつけてね!」

「あのね、僕、好美ちゃんが四人の大人達から逃げることができないっ

て、言ってるのを聞いたんだ」

「えっ、いつ! どこで!」

 淳也の言葉に先生が強く興味をもったらしい。淳也は嬉しくなった。

元気よく応えた。

「うん、夢の中で好美ちゃんと話したんだ」

「えーっ、またゆめーっ?」

 吉田先生は困ったという顔をした。

「そう…… でもね、淳也君、そのことを他の人に言っちゃあ駄目よ」

「なぜ?」

 吉田先生は淳也の気持を傷つけたくなかった。

「うーん、困ったな。先生はうまく説明できないわ。

 でも、本当に言っちゃあだめよ、言わないでね。

 淳也君、よい子だから、ねっ!」

 先生は、淳也の顔を見ながら優しく言った。

「うん。わかった」

「じゃあ、みんな、ランドセルに教科書やノートを入れて、校庭に集ま

ってください」




 校庭には、全校児童がランドセルを背負って集まった。

 それぞれ住んでいる地域ごとに集められ、六年生がリーダーとなって

学校を出た。

 学校に駆けつけた保護者も一緒に歩いた。

 淳也のママは途中で合流し、淳也の手を握って歩いた。

「ママ、僕ね……

 神崎好美ちゃんが大きな家の二階に閉じ込められているのを見たんだ

よ」

 先生は誰にも言うなって言ったが、ママに言うのはかまわないだろう

と淳也は思った。

「えっ、どこに閉じ込められているの?」

「だから、大きな家の二階だよ」

「その家はどこにあるの?」

「わかんないよ、そんなこと!」

 ママは立ち止まって背をかがめ、淳也に顔を近づけた。ママは真剣な

顔をしている。

「いつ見たの?」

「夢の中で……」

「夢ー!!」

 ママはひたいに手を当てて、あきれたという顔をし、周りを見渡し

た。淳也の話を聞いた者はいないようだ。

「先生に言ったら、誰にも言うなって言うんだ。やっぱり、言っちゃい

けない?」

「いけません! 絶対に、そんなことを言っちゃあいけません!」

 ママは、淳也をおいて一人で先に歩いて行った。

 近くを歩いていたツッ君が、

「淳ちゃん、叱られたー。淳ちゃんがママに叱られたー」

 と、大きな声でリズムをつけて叫んだ。

「ツッ君、何言っているの、淳也を叱ってはいないよ。ねー、淳ちゃ

ん!」

 とママは、淳也の方を振り返って作り笑いの顔で言った。

「……」




  
  ==今回はここまで==

  石川淳也です。

 前回、吉田先生は純也の夢の話を信じてくれませんでした。

 今回も先生だけでなく、ママも信じてくれませんでした。

 大人は淳也の夢の話を信じない。だから、子供達だけで……

 次回から、この誘拐事件は一歩先に展開します。



 では、次回をお楽しみに!



 ちょっ、ちょっと待って!

 わっ私、サヤカです。


 淳也君がブログを始めたというから、ちょっとのぞいてみたら「第二

章 誘拐 その2」で、私のこと、初恋の人だったで書いているじゃな

い。

 驚いた〜っ。知らなかったもん。

 でも悪い気はしないよ、うれしいよ。

 でね、お願いだけど、淳也君の夢の中にでてくる私って、私のしらな

いことじゃあない。

 いつでもいいから、現実の私のこともブログに書いてほしいな。



 淳也、赤面。

 わかった、わかったよ。いつか書くから……  ねっ!



 では、本当に次回をお楽しみに。



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ゴエモン 第二章 誘拐 その5(通算7回目)
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 石川淳也です。


 そろそろゴエモンの活躍をみたいものです。

 今回は、そのゴエモンパワーの披露といったところです。

 そのため、少し長めの文章になっちゃいました。

 では、どうぞ! 最後まで読み通し、楽しんでください。


    =================



 家に戻り、淳也はゴエモンに話しかけた。

「ゴエモン、夢で見たことは、本当ではないのかなー。

 夢の中では、ゴエモンも一緒だったけど、ゴエモンは好美ちゃんを知

らない?」

 ゴエモンは、淳也の顔を見て、

「クーン、クーン」と、何かを言いたいようだが通じない。

 淳也の顔を眺めていたゴエモンはゴロリと寝転がって、目を閉じた。

 淳也はゴエモンを抱えあげて

「ゴエモン、ゴエモン」

 と、呼んだが目を開けてくれない。

 一方、ゴエモンの方は淳也に眠れと言いたくて眠ったふりをしたので

あるが、淳也にそんなことはわからない。

 今度は目を開けて

「クン、クーン、クンクン、クーン、クーン……」

 と泣き始めた。その声にはリズムがある。

 その泣き声を聞いた淳也は心地よくなり、目がとろんとしている。ゴ

エモンは催眠術をかけたのである。

「スー、スー……」

 淳也の小さな寝息が聞こえてきた。




 淳也は夢の中に入った。夢の中でゴエモンが『淳也』と言った。

『淳也、お前が見たことは本当のことだ』

『僕は、本当に好美ちゃんを見たんだよね!』

『ああそうだ』

『好美ちゃんが入れられているあの建物はどこだろう?

 場所が分れば、ママも信じてくれるのだが……』

『大人は、夢の中のことを信じてくれないぞ。

 淳也よりも大きくて、大人になっていない者が誰かいるか?』

『…… 隣の京子お姉ちゃんがいる』

『じゃあ、その子に話しをすればよい。

 その前に、好美が捕らえられている建物の場所を捜そう。わしの背に

乗れ』

『ゴエモンの小さな体には、乗れないよ』

『構わんからまたがれ!』

 淳也がゴエモンの小さな体にまたがると、ゴエモンは浮かび上がり、

 淳也の体を持ち上げた。

 不思議なことに、淳也の体とその下のゴエモンがフワリと浮き上がっ

たのだ。

 地面から足が離れた。バランスを取るのがむつかしい。

 ゴエモンは自転車のサドル程度の大きさである。

 自転車に乗ったのなら、お尻をサドルにつけて、両足はペダルに、両

手はハンドルにつけている。だから身体の五ヶ所を自転車につけてい

る。一輪車でもサドルと両足のペダルで三ヶ所をつけている。 

 だからバランスを保つことができる。 が、ゴエモンにまたがった場

合はお尻だけの一ヶ所でバランスが取れない。

 淳也はゴエモンの上でふらついた。

 二階の屋根の高さになり、さらに上昇した。庭が小さくなった。

『わあー、すっ、すご〜〜い』

 叫んだ淳也の体がぐらりと揺れ、バランスを失い、落ちそうになっ

た。ゴエモンが淳也の体を何とか支えた。

『情けない奴だ。わしの体をしっかりとつかんでおれ!』

『つかめたって、小さな体だから、つかめないよ』

『どこでもよいから、つかまっておれ! じゃあ、行くぞ』

 股の下でゴエモンが言った。

 淳也は左手をゴエモンの頭にのせて、右手を後ろに回してゴエモンの

しっぽを強く握った。

 淳也達を誰かが見たら、ゴエモンは淳也の股に隠れて見えないから、

股を少し開いた淳也がおちんちんとお尻に手をやって、空を一人で浮い

ているよう見えるだろう。いかにも奇妙な格好である。

 随分と高くなった、遠くまで見渡せる。水平に移動し始めた。

『あっサヤカちゃんの家だ。

 ゴエモン、あれはねえー。僕の好きなサヤカちゃんの家だよ。

 おーい、サヤカちゃーん』

 ゴエモンはあきれて返事をしなかった。

 淳也が通っている小学校の上を通過した。

『わあー、学校だ、学校だ。おーい、吉田せんせー』

『こっ、こら! 静かにせんか!

 今から行く所を、覚えておかなければならないぞ。わかったな!』

『わっ、わかった』



 川の上を横切り、公園の上を飛んだ。好美ちゃんが捕まっている倉庫

のような建物は見つからない。

 淳也は空からの眺めを楽しんでいたが、ゴエモンは淳也の股の下で、

一生懸命さがしている。

 方向を変えた。小さな山を越えた、ビルが幾つも並んでいる、遠くに

海が見える。

『あっ、海だ。いいなあー』

『淳也、見ろ! 海の手前に道がある。道のそばに青い屋根の大きな建

物があるじゃろう』

 海の手前にバイパスが通っており、何台もの車が行き来している。

 そのバイパス沿いに、大きな駐車場のあるパチンコ店があり、その隣

が青い屋根の建物である。

『うん、ある、ある』

『あれがそうじゃ。好美が捕らえられている建物だ』

 ゴエモンと淳也は、その建物のそばにゆっくりと降りた。建物は高い

塀で囲まれており、入り口に“高島印刷株式会社”と書かれていた。

 しかし、淳也には“高島”という漢字は読めても、“印刷株式会社”

が読めない。

『中に入ってみよう』

『えっ、僕らが捕まったらどうするの?』

『これは夢だ。わしらの姿は誰にも見えない』

『そうなの、便利だね』

 塀の入り口は鍵がかかっていた。

『ゴエモン、入れないよ』

『入れる、ついて来い』

 ゴエモンは塀の壁に向かって歩いて行く。すると、塀の中にゴエモン

の体が消えた。

『ゴエモン、ゴエモン。どこに行ったの?』

『淳也、お前も同じようにしてみろ』と、塀の中からゴエモンの声がし

た。

 淳也も同じように壁に向かって歩いて行った。壁に触れた。が、壁に

当ったという感覚はなかった。すーっと壁を抜けてしまった。塀の内側

に入ったのである。

 建物の中が透視して見えた。二階の小部屋に好美ちゃんが見える。

『ここだ』

『うん、そうだね……』

 淳也は返事をしたが、どうしたことだ。淳也が消えてしまった??

 ゴエモンは慌てた。

『淳也、淳也ー。どこへ行った!』




 その少し前、石川家では、ママが寝ている淳也を起こそうとしてい

た。

「うん。そうだね……」

 と淳也が寝言をいっている。

「淳也、起きなさい」

 ママに体を強く揺すられて淳也は目を覚まし、夢から出た。

 だから、淳也の姿がゴエモンの前から消えたのだ。

「ママー、駄目じゃあないか。せっかく好美ちゃんが捕まっている建物

を探し出したのに!」

「また、夢を見ていたの?

 駄目なのは淳也よ。こんな所で寝ていると風邪を引いちゃうから。

 寝るんだったら、ベッドで寝なさい」

 淳也はママの言葉を聞いてないかのように

「あっ、ゴエモンは?」

 ゴエモンの小屋をのぞいた。ゴエモンはよい気持で寝ていた。

「ゴエモン、ゴエモン」

 と、淳也は呼びながら、ゴエモンを抱き上げた。




 その頃、ゴエモンは、『わしの催眠術の力が弱くて眠りが浅かったの

か』と、独り言をいっている。淳也がママに起されたとは知っていな

い。

 ゴエモンは一人で、いや一匹で行動することにした。

 ふわりと浮きあがり、好美ちゃんが捕らえられている二階の部屋に入

った。好美ちゃんは、すやすやと寝ていた。

『好美、好美!』

 ゴエモンは呼んで、好美ちゃんを夢の中に入れた。

『あっ、犬だ! 犬が私を呼んだ?』

『シーッ! 静かに! 小さな声で!』

 ゴエモンが好美ちゃんに言った。

『わしは、石川淳也の友達でゴエモンという。お前を助けるために来

た』

『えっ、本当? でも、どうやって、ここから逃げるの?』

『今は、助けることができない。しかし、きっと助けてやるから安心し

ておれ!』

『私、ママとパパに会いたい、夢でもいいから会いたい!』

 好美ちゃんがかわいそうになった。

『そうか、では会わせてやろう。わしの体をまたげ』

『えーっ、でも……』

『かまわぬから、またげ、早く!』

 好美ちゃんはゴエモンをまたいだ。ゴエモンと好美ちゃんはふわりと

浮きあがり、建物の屋根をすーっと通り抜けて空へ舞い上がった。好美

ちゃんもバランスを取りにくそうだ。

 ゴエモンは淳也がしたように頭としっぽを握れと言った。淳也と同じ

ような格好になった。好美ちゃんは両親に会えると思うと必死である。

格好悪いなどと思っていない。

 淳也の家の方に向かった。淳也の家の二軒隣が好美ちゃんの家であ

る。

『あっ、私の家が見えてきた』

 好美ちゃんの家の前には、警察や新聞社、テレビ局の車が何台も留ま

っている。

『あっ、淳也君よ。ゴエモン!』

 好美ちゃんは、二日前の夢の中で淳也と会っている。だから、淳也を

知っていた。





 一方淳也の方は、ゴエモンと好美ちゃんが夢の中で空を飛んでいるこ

とをしらずに、ゴエモンの目を覚まそうとしている。




『あっ、淳也の馬鹿め! やめろ、淳也。わしを起こすのはやめろ!』

 夢の中のゴエモンが叫んだ。



「ゴエモーン、起きろー」

 淳也は、ゴエモンの耳のそばで大きな声を出した。たまらずゴエモン

は目を覚ました。






 好美ちゃんの股の下でゴエモンが消えた。

 好美ちゃんは、まっさかさまに空から落ちた。

『きゃー、ゴエモン。どこへ行ったのーっ、助けてー』





  ==今日はここまでです==



 ゴエモンが目を覚ますと好美ちゃんはどうなるのでしょう。

 そう、あなたが想像した通りになります。

 では、次回をお楽しみに!



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ゴエモンとその仲間達


 石川淳也です。

 この物語に登場する人や動物が増えていきます。
 その度にこのページに追加します。


goemon




 ゴエモン(主人公1)

   盗賊石川五右衛門の生まれ変わり、石川家で飼われている。

   夢の中に子供や動物を引き入れ、自由に行動できる。

   おじいちゃん(石川光夫)が子供の頃、ネズミとして生まれたゴ

  エモンはおじいちゃん一家を助けた。


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 石川淳也(主人公2)

   石川五右衛門の子孫。小学二年生。ゴエモンと共に数々の活躍を

  する。



 石川光夫

   淳也のおじいちゃん。子供の頃、ネズミのゴエモンに助けられ

  た。(第六章の中心人物)



主人公を取り巻く人々と動物達

 パパ

   石川淳也の父



 ママ

   石川淳也の母




 石川美奈子

   淳也の妹で幼稚園に通っている。




 西村京子

   石川家の隣に住む高校生。



 ゴンタ

   野良猫。背に弓矢を刺されて、痛がっているところを淳也達に助

  けられる。



 片目のドラ

   野良猫集団のボス。



 捨てのチビ

   大きな野良猫。捨てられたときはチビだったので、片目のドラが

  名づけた。


 カンタ

   若い猫。野良猫集団の一匹



 チュウゾウ

   暴走族のリーダーが住むアパートのネズミの集団のリーダー



 西村のおばちゃん

   西村京子の母親。



 山中範子

   西村京子の友達。高校二年生。両親が離婚して弟妹の面倒、入院

  している父親の世話をしている。



 山中俊彦

   山中範子の弟。小学校四年生



 山中昌子

   山中範子の妹。小学校一年生。



 寺山のおじいさん

   暴走族に愛犬ゴローを殺され、自らも傷つけられた。ラジコンの

  ヘリコプターを使って、暴走族に仕返しをしようとしていた。



 神崎好美

   石川家の二軒となりに住んでいる。小学三年生。淳也とは違う小

  学校に通っている。何者かに誘拐事件にされる。



 浩二君

   小学六年生、少年野球チームのキャプテンでもある。




 吉田先生

   石川淳也の担任。淳也が話す夢の話を信じてくれない。




 その他



  石川淳也のクラスメート

   修君、ツッ君、サヤカちゃんなど


 わたし、サヤカです。

 ちょっと、ちょっと〜、淳也君。

 失礼じゃあない!  私のこと初恋の人といいながら、その他に入  

れるなんて……  プン、プン!




仲間ではないもの

 島崎

  刑事であるが、神崎好美ちゃん誘拐犯人の1人。



 野口哲也

  京子お姉ちゃんが好きだった高校生。メス猫のマヤとミヤを殺し、

 ゴンタの背に弓矢を射った。




小説「ゴエモン」とは関係ない人々


 山崎ミカ

   中学生になった石川美奈子がいじめられているとき、助けてく

  れ、友達になった。

   ミカは高校二年生で、両親はいない。宮根という男性と生活して

  いる。

   ミカと宮根には隠された何かがあり、これを聞き出して、小説

  「ゴエモン」第一巻が終わった後、ミカを主人公にした小説を配信

  する予定。


 宮根

   山崎ミカと暮らしている。職業は探偵。ミカよりもこの宮根の方

  が大きな秘密を持っていそうだ。




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ゴエモン 第二章 誘拐 その6(通算8回)
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 石川淳也です。

 前回、誘拐された神崎好美ちゃんはゴエモンにまたがって空を飛んで

いましたが、ゴエモンが急に好美ちゃんの股の下からいなくなってしま

いました。

 支えていたゴエモンがいなくなった。好美ちゃんは真っさかさま落ち

ていきました。


 好美ちゃんはどうなるのでしょうか?


 今回から本格的に隣の京子お姉ちゃんがこの物語に参加します。

 では、ごゆっくりお楽しみ下さい。


    ==============



 好美ちゃんが目を覚ました。捕らえられている小部屋の中だった。

「ああっ、恐かった。

 空を飛ぶ夢を見たら、きっとよいことがあるってママから聞いたこと

があるけど、空から落ちたのだから、きっと悪いことだわ。

 どうしよう…… 私、殺されるのかしら……」

 好美ちゃんは、シクシクと泣きだした。




 その頃、ゴエモンが淳也の腕の中で目を覚ました。

「ウーッ」

 ゴエモンがうなり声をだして、淳也の鼻に噛みついた。しかし、ゴエ

モンの歯はまだ生えていない。淳也に痛みはなかった。

 淳也に痛みはなかったが、ゴエモンが怒っていることは分った。

「ゴエモン、どうしたの? なぜ、怒っているの?」

 ゴエモンは、抱かれたままでぷいと横を向いた。

「ゴエモン、好美ちゃんが捕まっている建物の場所が分ったら、京子お

姉ちゃんに話すんだったね」




 淳也は、ゴエモンを抱いたままで、隣の西村家に行った。

「お姉ちゃーん、京子お姉ちゃーん」

 玄関に入って叫んだ。

 おばちゃんが出てきた。

「淳ちゃん、どうしたの? 京子に用事?」

 京子お姉ちゃんが気味の悪い色のマニュキアをした足の爪を見せなが

ら、階段を降りてきた。

「うるさいなー、大きな声を出して!」

「お姉ちゃん、ごめんなさい。話があるのだけど……」

「へえー、淳ちゃんが私に?」

 ゴエモンを抱いた淳也は、コックリとうなずいた。

「面白い顔をした犬だな、貸して」

 と言って、ゴエモンを奪い取った。

「はっはは、鼻黒だな、おい、鼻黒」

 と、お姉ちゃんはゴエモンの鼻をつつきながら言った。

「お姉ちゃん、名前はゴエモンだよ!」

 淳也が怒って言った。

「ゴエモンかー、鼻黒でもゴエモンでも、おかしな名前だな」

 と言いながらゴエモンを抱いたままで二階に上がった。淳也は靴を脱

いで慌てて後に続いた。

 おばちゃんは、あきれて見ていた。

 淳也は京子お姉ちゃんの部屋に初めて入った。化粧の臭いがすごい。

 鼻の敏感なゴエモンは、二本の前足で鼻の穴を押さえている。

「で…… 話って何だ?」

「お姉ちゃんは、神崎好美ちゃんのことを知ってるでしょ?」

「知っているよ、誘拐されたんだろ。この辺りはサツの車でいっぱい

さ」

「僕とゴエモンは、好美ちゃんが捕まっている所を知ってるんだ。だか

ら、お姉ちゃんに助けて欲しいの」

「どこに捕まっているのだ?」

「えーっと、海の近くに大きな道路があって…… その道路のそばの大

きな建物の二階」

「なぜ、それを私に言うの?

 淳ちゃんのママやパパに言ったらどうなんだい」

「信じてくれないんだよ、大人は。

 お姉ちゃんは、大人じゃあないでしょ。だから僕の言うことを信じて

くれると思うんだ。

 ゴエモンもそう言っているよ」

「わかった。でも、淳ちゃんは、どうして捕らえられている場所を知っ

たんだ?」

「夢の中で好美ちゃんと会ったんだ」

「ゆめーっ? はっはは」

「お姉ちゃんも信じてくれないの? 大人じゃあないから信じてくれる

と思ったのだけど」

「今の話だけじゃあ、信じられないよ。

 もっと、話してみろよ。どんな夢なのかを」

 淳也は、夢の内容を詳しく話した。

「じゃあ、私も鼻黒にまたがって、空を飛べる?」

「鼻黒じゃあないよ。ゴエモンだよ!

 お姉ちゃんは、僕よりも重いからなー。大丈夫かな?」

 と淳也は言い、ゴエモンに聞いた。

「ゴエモン、お姉ちゃんも空を飛べるかい?」

 ゴエモンは、前足で鼻の穴を押さえたままで

「クン」とうなずいた。

「大丈夫だって」

 今のゴエモンの動作が本当に淳也に返事をしたものとは、京子おねえ

ちゃんは思わなかった。でも、面白いので

「じゃあ、やってみな」と、言った。

「駄目だよ、眠って夢の中に入らなきゃあできないよ」

 その時、ゴエモンが

「クン、クーン、クンクン、クーン、クーン……」

 となき始めた。その声にはリズムがある。ゴエモンが催眠術をかけは

じめた。

 淳也とお姉ちゃんがゴロンと寝転び、「スー、スー」と寝息をかき始

めたのをを見たゴエモンも、ゴロリと横になった。





『京子、わしをまたげ!』

『えっ! 本当にこの犬が喋っているのか?』

 お姉ちゃんは驚いている。

 淳也はニヤリと笑った。

『そうだよ。ゴエモンが喋っているんだよ』

『ゴッ、ゴエモン、お前はまたげないよ。小さ過ぎるよ』

『構わんから、またげ!』

 京子お姉ちゃんはゴエモンをまたいだ。ゴエモンの小さな体がスカー

トの中にスッポリと隠れてしまった。

『うわーっ、こっ、こら! 変なことをするな!』

『お姉ちゃん、どうしたの?』

『この犬が、股に上がってきた!』

『うん、そうしなきゃあ飛べないよ』





  ==今回はここまでです==



京子「淳ちゃん、何だよ! 私のことも書いていいかって聞くから、良

  いよ言ったけど、何で私のスカートの中にゴエモンが入ったところ

  で終わるのよ? カッコ悪いたらありゃしない」

淳也「でも、仕方ないよ。長い文章は読む人が大変なんだから……」

京子「まあ、私も長い文章は飽きちゃう方だから、それはわかるけ

  ど……」

淳也「じゃあ、わかってくれたんだね。良かった」

京子「淳ちゃん、昔はかわいかったけどねえ〜。もうすぐ高校三年生な

  んだね。今じゃあ、私を言い負かすんだから」

淳也「次回はお姉ちゃんのこと、格好良く書くからさ。ねっ!」



  では、次回をお楽しみ




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ゴエモン 第二章 誘拐 その7(通算9回目)
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 西村京子で〜す。



 今、淳ちゃんは塾に行っていて留守です。何せ、大学受験で大変なん

だから。

 だから代わりに私が今回の案内をします。

 前回は、あのHな鼻黒が……、いや、ゴエモンが私のスカートの中に

入ったところまでだったね。

 では、今回も楽しめよっ!


     ============




 ゴエモンがスカートの中から出てきた。

『駄目だ、スカートの中では前が見えない。淳也がまたがれ!』

 淳也がゴエモンにまたがると、ふわりと浮き上がった。

『京子、わしの足にぶら下がれ! いや、わしの足よりも淳也の足にぶ

ら下がれ』

 ゴエモンは、お姉ちゃんに対しては不機嫌そうである。

 京子お姉ちゃんは淳也の足首をつかんだ。

 お姉ちゃんの体も浮きあがった。淳也は、お姉ちゃんがぶらさがって

いることはわかるが、お姉ちゃんの体重を感じなかった。

 夢の中では無重力のようだ。

 そのまま天井を通り抜け、空へ舞い上がった。

『もう一度好美が捕らわれている建物に向かうぞ!』

 とゴエモンが言った。

『うわー、すっ、すっげー』お姉ちゃんが叫んだ。

『あれっ? 私、高所恐怖症なのに、恐くない』

『お姉ちゃん、これは夢の中だから、恐くないんだよ』

 海が見えてきた。好美ちゃんがいる建物の前に降りた。

『この中だよ、お姉ちゃん』

『ふーん、高島印刷株式会社か……』

『じゃあ、行くよ』

 壁の中に入ろうとするゴエモンを見て淳也が言った。

『まっ、待てよ!』

 京子お姉ちゃんも後に続いた。

 建物の中が透視で見える。二階の小部屋を指差した淳也が、

『あれが好美ちゃんだよ』

『話しはできないのか?』

『駄目だ。好美は今起きている、眠っていれば夢の中に誘い込むことが

できるのだが、今はできない』

『僕達を眠らせたようにはできないの?』

『わしも、お前達も起きていたから催眠術をかけることができたが、

今、わし達は眠っている。

 眠っている者から起きている者へは、話しかけることはできない。催

眠術をかけることもできない』

 その時、京子お姉ちゃんが『わっわわー』と、言いながら消えた。





 京子お姉ちゃんの部屋では、おばちゃんが

「どうしたの? せっかくジュースを持って来てあげたのに、二人共寝

込んじゃって……」

 と言いながら、お姉ちゃんを揺り起こした。

「なぜ、起こすんだよ!」

 京子お姉ちゃんはおばちゃんを怒った。

 おばちゃんは、淳也も起こそうとしている。

「そのまま、寝かせてやりなよ、夢の中にいるんだから……」

 おばちゃんが起こす前に、淳也とゴエモンの目が覚めた。

「お姉ちゃん、どうしたの?」

「うん、起こされたんだよ」

 京子お姉ちゃんはおばちゃんがいることを目で示した。

「あっ、おばちゃん……」

「淳ちゃん達、どうしたの? ゴエモンまでみんなそろって寝ているな

んて……

 ジュースを持って来てあげたからね」

 気味悪そうにおばちゃんは階段を降りた。

「お姉ちゃん、わかったでしょ。嘘じゃあないことが……」

「夢の話は信じるよ。神崎さんの家に警察がいるだろうから、話しに行

こう」

「よかった、お姉ちゃんにわかってもらえて……」





 ゴエモンを抱いた淳也は、京子お姉ちゃんに続いて玄関を出た。その

時、下の坂道を神崎さんちへ向かって歩いている警官と刑事らしき男が

いた。

 淳也はその刑事らしき男に見覚えがあった。が、はっきりとは覚えて

いない。何か悪いイメージの記憶だ。

 ゴエモンが「ウーッ、ウーッ」とうなりだした。歯が生えていれば、

牙をむき出しているだろう。

 京子お姉ちゃんは、その刑事に向かって声をかけようとしていた。

「駄目だよ、お姉ちゃん。その人に言っては駄目だよ」

 と、なぜか淳也が言った。 が、淳也のその言葉と同時に

「警察の人ですか?」

 と、お姉ちゃんが声をかけた。

「お姉ちゃん、その人に言っちゃあ駄目だよ!」

 もう一度、淳也は小さな声で言った。

「えっ、何って言った?」

聞こえなかったようだ。





==今回はここまで==




 京子です。



 あっ、今、淳ちゃんが帰ってきた。

「お帰り、今回の話は終わったよ」

「そう、ありがとう」

「ところで、私のこと、良く書くと言っていたけど、もうちょっとしと

やかな少女に書いてくれないかな」

「ありのままじゃあ、だめ?」

「私ってあんなに乱暴な言葉をつかっていた〜?」

「うん、まあ、あの頃は乱暴だったと思うけど…… おばちゃんも困っ

ていたよ。

 でも、もう少し先にすすむとお姉ちゃんもしとやかに変わってくるか

ら、それまで待ってよ」


「ところで、あのとき、なぜ大きな声であの刑事に言っちゃあ駄目だと

言わなかったのさ! 私は大変な目にあったのだから。

 ああーっ、今思い出してもぞっとする」

「ごめんなさい……」



 では、次回をお楽しみ





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